戦争の国のアリス
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カテゴリ小説
2019/8/28(水)午後1:52
2019年8月24日土曜日
ロシア北部アルハンゲリスク付近のロシア海軍ミサイル実験場で、8日に発生した爆発は、原子力を使った新型兵器の開発実験中に起きた事故だったらしいが……北極圏バレンツ海の入り江に在る洋上施設で、エンジン実験中に発生した事故では、ロシアの国営原子力企業ロスアトムの従業員五名が死亡、三名が負傷、近隣地域では爆発後放射線量が一時的ながら最大で通常の16倍に迄上昇したとの事らしい。
ロシアの別荘風の《ダーチャの屋敷》。その、広い居間(リビング)に置いた古い真空管式のステレオで、わたしはピンクフロイドの《原子心母》のレコードを掛けたが、すると、ロックの曲とは思えないクラシックの交響曲の様な音楽が流れた。
「これ、なあに?」と、酷く怪訝そうに、アリス……「ピンクフロイドという、有名なロックバンドの代表作よ。《原子心母》(アトム・ハート・マザー)」「ふうん。レディ=ガガなんかとは随分感じが違うのね?」「それは、まあ。だって、ピンクフロイドの《原子心母》は、60年代後半から70年代頃の曲が中心だもの。余り、詳しくは知らないけれど」「そんな大昔から、ロックはあった訳?」アリスやシンシア、それにアーロンらの子供達が、ピンクフロイドの存在を知らないのは全く無理もなかった。
[イフアイゴーインセインプリーズドントプットユアワイヤーインマイブレイン……]その歌詞を聴いて、アリスは益々呑み込めないという風だったが……「全然、歌詞の意味が分からないわあ。どういう事?」「つまり、これは、昔アメリカなどで行われた、精神疾患の患者達の脳髄、前頭葉を切除した外科手術の事を言ってるの」「へえ。でも、どうやって?」「アイスピックを瞼の上から突き入れて、脳の前頭葉部分を切断したり」「!?滅茶苦茶じゃないの?」「そうよ。J=F=ケネディ大統領の家族もそのロボトミー手術を受けて……まあ、そんな話は止しましょう」
「モンスター・スタディについては、メアリー先生はご存知?」「少しはね。どうして?」「あたしやシンシア、アーロンや施設の子供達は皆、心理学的な実験の被験者にされているからよ。否応もなく……その資料(データ)が、多分、戦争の際の異常心理研究などに応用されて使われるんでしょ?つまり、体のいいモルモットよね」「確かに、その通りだけど……元々は、あの施設はボランティアのNGOだったんだけどね。それを政府が……」
ロシア・ロスアトムは、10日[放射性同位元素を使った燃料エンジンの実験中に爆発した]と発表し、原子力を推進力として利用するエンジンを巡る事故だったと事実上認めた。但し、被害の実態や爆発原因は軍事機密の壁に阻まれ、不明の儘だが……
わたしは、良く考えるのだ……一体、どうして、こうした愚かな戦争や紛争、人種差別等々ばかりの世界で、奇しくも大勢の子供達と職場である施設内で出逢い、彼らの異常心理を研究しなければならないのだろうか?と……本来なら、平和で静寂に満ちた世界で、子供達にまともな教育を施し、慈しみに満ちた人間に育って欲しいと思うのだけれど。
「ねえ。シンシア……ガンダムの、赤い彗星シャアはね、本当は革命軍に入る筈じゃなかったのよ」「そうなの?」「ええ。彼には、瓜二つの親戚の青年がいて、元々はその青年が革命軍に志願したのを……」アリス達は、ジャパニメーションの話に興じている。生憎と、このわたしには全く良く分からないのだけど。「この、ダーチャの屋敷は静かでいいけど、寂しいわね。インターネットの環境はどうなのかしら?」そう言って、シンシアはきょろきょろと辺りを見回した。アリスは金髪(ブロンド)だが、シンシアはややブルネットがかっていて、瞳の色も灰青色に見える。まるで、シリアの子供達の様に……
「まあ、Wi-Fiの電波は飛んでるんじゃない?でも、わたし達が使えるパソコンやスマートフォンはないし、デジタルネイティブに取っては酷だわねえ。それこそ、まるでドイツ系移民で敬虔なキリスト教集団のアーミッシュみたいだわ。《刑事ジョンブック目撃者》の映画では見たけど……」
アーミッシュ……わたしは、出来ればアリスや子供達を本物のアーミッシュの集落へと連れて行きたかったものの、叶わなかった。昔、アーミッシュの村で、男がライフルを乱射した無差別銃撃テロの様な事件が起きたのだが……その現実の事件では、少女が幼い妹を庇って撃たれ死亡した。もう、何年前になるだろうか?アリスの母親は、死後検死に回され、夫が放ったライフルの特徴と銃痕とは完全に一致。そして今又、イランとの核合意からアメリカは離脱し、ホルムズ海峡の防衛の問題を巡って中東は一触即発の様な危険な状態に陥っており、その根底にはアメリカ・トランプ大統領の唯物主義とイランの政権を握る人物との宗教を含めた価値観・世界観の相違があって、紛争の一言では片付けられない。
トランプ・アメリカ政権は、韓国が大方の予想に反して《日韓軍事情報包括保護協定》(GSOMIA)の破棄(終了)を決定した事を、強く批判している。手の付けられない暴れん坊とは雖も、トランプ大統領が同盟国に対して強い調子で非難する事は珍しいそうなのだが……日本と韓国との対立構造が、遂に安全保障の分野に迄波及した事で、日米韓の軍事的連携が崩れ、東アジアに於ける安全保障環境の不安定化に繋がりかねない為だ。
時系列に沿って、順序立って言えば、韓国政府は22日《日韓軍事情報包括保護協定》(GSOMIA)破棄を決めたのは、日本への融和姿勢も見せ始めていた文在寅(ムン=ジェイン)政権が内政上の苦境に陥り、再び態度を硬化させた為とも見られる。
『(GSOMIA破棄は)電撃的に決まった様だ』韓国政府関係者は、そう、日本のメディア(大手新聞の記者)に対して語ったそうなのだけれど……それは、日本の東北地方で暮らすTomokoが23日の午後(日本時間)にメールで報せてくれた。[日本では、この前、あいち(愛知)トリエンナーレ2019表現の不自由展]という展覧会が催されたのですが、右翼を想わせる人物の、名古屋市長が主催者に抗議した為に中断されて仕舞いました。民主主義の根幹である、表現の自由が市長の検閲の様な形でとん挫を余儀無くされたのは、非常に残念な事です]
[中国では、ノーベル平和賞を受賞された劉暁波氏の問題も御座いましたが……劉暁波氏が亡くなられてから、劉氏の奥様は欧州へ亡命為さったという風にも聴きましたけれど。奥様は、深刻な鬱病を患って御出との事で、本当に痛ましくお気の毒に感じます][話が逸れましたが、日本では今、韓国に対する悪感情が高まっているのか、或いはそんな風に政府やメディアに依って印象操作されているのかも知れません。だとすれば怖ろしい事です……嘗て、日本では大正デモクラシーが終わってから、軍部が暴走し、又、日本新聞等のメディアが戦争ムードを煽って日米開戦に至りましたから。もう二度と、あの愚かな過ちを繰り返してはならないのです……]
「戦争戦争って言うけど、実感としてはどうも良く分からないわあ。シンシア、貴方はどう思う?」アリスは、車椅子の上からもどかしそうにそう問うた……「あたしも、映画でしか知らないわね。例えば、トム=クルーズが主演の《7月4日に生まれて》だとか。あれは、一体何の戦争?」「さあー。湾岸戦争かイラク戦争じゃないの?……」
《戦争の国のアリス》……アリス=R=スミス、そして友達のシンシアとアーロン。シンシアは、名前の通りに誠実な少女で、まだ裏腹もない。《ダブル・ディーラー》、二心を持つ者という言葉があるけれど、大人に成長すればそれは寧ろ当たり前の事だ。他者の内心を忖度し、その場の空気を巧みに読む事、コモンセンスを身に付ける事……それが、社会人としての最低限の規則(ルール)だった筈なのだが、ドナルド=トランプ氏の登場以来それは最早アメリカ合衆国の常識ではなくなって仕舞ったかの様だ。
「ところで、INFってなあに?」と、シンシア……「それは、中距離核兵器の……18日に、アメリカはその中距離ミサイルの実験を行ったわよね。それで、ロシアのプーチンや中国の習近平(シー=ジンピン)はカンカンになって怒っているのよ。特に、プーチンは……」
プーチン大統領は、昨年の年次教書演説でアメリカのミサイル防衛(MD)システムを念頭に、小型原子炉を塔載した原子力推進式巡航ミサイル・ブレベスニクや、マッハ10で飛行する極超音速ミサイル・キンジャルなど開発中の新兵器を次々と紹介し、アメリカへの対抗意識を露わにさせている。因みに、ブレベスニクは航続距離が[事実上、無限](プーチン氏談)とされ、核弾頭も搭載であるらしい。北朝鮮が、七月末から日本海(東海)に向かって発射し続けている飛翔体・短距離弾道ミサイルは果たしてどうなのだろう?核弾頭は塔載可能なのだろうか?
アメリカが、INF条約で禁じられていた地上発射型の中距離巡航ミサイル実験を18日に実施し、MDシステムの迎撃ミサイル発射施設を展開するルーマニアやポーランドにロシアを射程に収める中距離ミサイルが配備される可能性が現実味を帯びて来た事から、ロシアの軍事評論家・ウラジーミル=エフセーエフ氏は『防御だけに限らず、攻撃の際にも使用出来るアメリカのMDシステムが軍拡競争を招いている』として懸念を表明。単純に考えて、この儘でゆけば第三次世界大戦が惹き起こされるのでは?と、思って仕舞うのは杞憂に過ぎるというものだろうか?それならば、まあ良いのだが……しかし、戦争とは何処か人間の理性や合理主義精神に依る均衡(バランス)の枷が外れたところで、交通事故の様に不意に勃発するものの様にも思える。そもそも、この狂気染みた(クレイジー)な世界が絶対に均衡(バランス)を崩さないと考えるのは《神話》ではないのか?
更に、二十一世紀という不幸な時代を生きる、私達は、AIを塔載した自律型致死性兵器について迄考えを巡らせねばならない。
「ねえ、これは何という映画?」「ターミネーターよ。続編の2と3、それに4もあるみたいよ」子供達は、大型テレビで自律型致死性ロボットの映画を見てはしゃいでいる……「ターミネーター2は、何時頃制作されたのかしら?」「大体、三十年前くらいみたい」「ふうん。それじゃあ、パソコンやスマートフォンはまだ余り一般的な家庭には普及していなかった頃かしらね?そう言えば、この映画にはスマートフォンは出て来ないわ。何となく不自然で変だな?と、思ったんだけど」アリスは、ポテトチップを袋から出して食べながら、夢中になってテレビの液晶画面を見詰めている……「最初のターミネーターでは、このロボットは悪役で生身の人間の男性と戦っていたのに、続編の2では少年を救う英雄(ヒーロー)に変わっているのよ。まあ、その方が面白いし良いけど。ヒロインの女性も、続編では随分と体を鍛えたのね。別人みたい」
アリスとシンシアとは会話も弾んでいるのだが、アーロンは独りで取り残されポツンと所在なさそうにしていた。元々、非常に大人しい性質なのだけれど……
「だけどさあ、AIも例えば、今ではアメリカの州に依っては警察の捜査に導入されてるんでしょう?前に、テレビのドキュメンタリー番組で見たんだけれど。麻薬の捜査だとか、事前に犯罪が起こりそうな場所や人物をAIが特定して、そこへ警察が逮捕に向かうのよね」「でも、それじゃあ物事の順序があべこべで、可笑しな事になって仕舞うんじゃない?鶏(ニワトリ)が先か、卵(タマゴ)が先か……」
わたしは、子供達は好きな様にさせて置いて、台所(キッチン)へと行きコーヒーメーカーで温かいコーヒーを淹れ、MOREのメンソールの箱を懐から出して火を灯した。ライターは、不便なのだが、わざわざロンソンの古いタイプのオイルライターを使用している。昔は、人類は、唯単に煙草に火を点けるのにも、これ程の大袈裟な機械を必要としたのだ。今となっては、寧ろ、そんな時代の方が懐かしく慕わしく感じられるけれど……全く、本当に奇妙なもので……
兎に角、時代は変遷してゆくし、それを止める事は誰にも出来はない。川の流れの様なものだ……水の流れを、どう遣って食い止められるだろうか?わたしは、疲れ果てて、二本目のメンソール煙草を口に咥えた……
2019年8月25日日曜日
殆ど毎日の様に、こうした非常に陰鬱な事ばかりを書き記さねばならない事に、わたしも一応は現生人類・ホモサピエンスの一員として真に遺憾に思う。
モスクワ共同発……ロシア国防省は24日、北極圏に近いバレンツ海から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「シネワ」と「ブラワ」の発射実験を行い、成功したと発表した。予定されていた訓練の一環で、SLBMの技術的能力が確認されたとしている。シネワは戦略原子力潜水艦トゥーラから、ブラワは戦略原潜ユーリー・ドルゴルーキーから発射され、北部アルハンゲリスク州と極東カムチャツカ半島の目標をそれぞれ破壊したという。
アリスは、もう完全に自力での歩行は困難で出来ない。だから、ダーチャの屋敷では、バスルームへはわたしかシンシアがアリスの車椅子を押して付き添ってゆく。
「ああ、嫌だわね。本当に忌々しいったらありゃあしないわ!」そう、悔しくて堪らないらしく、アリスは誰にともなく悪態を吐くのだが……「仕方がないでしょ、アリス。余り、そんな風にばかり言うんじゃないの!」と叱ると、アリスは酷く不満らしくぶうっと頬を膨らませ、貝の様に黙りこくった。勿論、可哀想なのだけれど……
2019年8月27日火曜日
AFP通信に依れば、イスラエル軍は24・25日、シリアとレバノンで敵対するイラン関連の施設や武装組織への攻撃を行ったらしく、先進七ヶ国(G7)首脳会議が24日に開幕したのを踏まえ、イランの危険性を国際社会に対してアピールする狙いがあるものと見られる。イスラエル軍は24日夜、シリアの首都・ダマスカス近郊でイラン関連の複数の軍事拠点を空爆、在英の民間団体《シリア人権監視団》に依ると、イランから軍事支援を受けるイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘員ら少なくとも五名が死亡した。
又、ヒズボラは25日、レバノンの首都・ベイルートに在る施設がイスラエルの無人機の攻撃を受けたと発表した。無人機には爆発物が積まれ、施設に飛来して自爆し、複数の負傷者が出たそうなのだが……しかし、その無人機が外観など果たして如何なるものであったのか、記事を読んだだけでは分からない。
中国政府が発表した、仮想敵国(まあ、アメリカだろう)へ自動攻撃を加える、AI搭載型の致死性兵器であるドローン進化型の無人飛行機が沢山飛翔し都市などの目標物を爆撃するイメージ画像を見た時には、慄然としたけれど……
アリスが、向日葵(ヒマワリ)の畑を見に行きたいと言うので、どうにか車椅子で大きなヴァンの車に乗せ連れて行く事にした。何時、容態が急変してどうなっても可笑しくはないし、兎に角、なるべくアリスの意向に沿う様にしてやりたい。シンシアとアーロンも、向日葵が何万本も植えられている広大な畑を是非見たいと言うので、一緒に車で連れてゆく。
「だけど、どうしてそんなに向日葵(ヒマワリ)の畑が見たいの?」とそう、わたしは、アリスや子供達に向かって訊いた……「逆に、向日葵が何万本も咲いている、素晴らしい光景を見たくはないんですか?メアリー先生?寧ろ、そっちの方がずっと不思議だわ」アリスは、車の中ではごく上機嫌で、漫画雑誌の様なものを熱心に読み耽っていた。「ねえ、アリス?その漫画雑誌はなに?」そう、シンシアが尋ねると、アリスはペラペラと頁を開いてわたし達全員に見せてくれた。「これは、《ちゃお》という日本で出版されているローティーンの少女向けのMANGA雑誌よ。取り寄せて貰ったの」「ふうん。じゃあ、アリスは日本語も読めるの?凄いわね」「まあ、簡単な単語なら分かる程度だけど……MANGAは、絵の方がメインだし、ただ眺めていてもある程度は意味が呑み込めるわよ」「どんな物語(ストーリー)?」「ローティーンの女の子達の、リアルな悩みだとか。十二歳くらいになって生理が始まったら、学校で無神経な男の子達に冷やかされて酷く腹を立てたり、女の子同士でスマートフォンも使って話し合ったり、保健の先生や家族に打ち明けて相談したりだとか。そんな感じ……」
ユダヤ系の少年であるアーロンは、何時もの様に気まずげに黙ってアリスとシンシアとの遣り取りに耳を傾けて聴いており、わたしはTOYOTA製の4WDの大型ヴァンを運転するのに集中していた。NISSANの、前会長のカルロス=ゴーン氏の騒動は漸く静まったらしいが……それにしても、トランプ大統領は更に中国に厳しい関税を課する様だし、アメリカと中国との貿易戦争は今後どうなって仕舞うのだろうか?
アリスは、インターネットのニュース記事で、向日葵(ヒマワリ)が無限に咲き誇っている様な畑の事を知ったらしい。ふと、わたしは、十九世紀オランダの画家・ファン=ゴッホが描いた太陽の様な向日葵の油絵(タブロー)を思い起こした。向日葵(ヒマワリ)の連作は、勿論、ゴッホの代表的な作品として世界中に広く知られているけれど。濃厚なマチエールの、黄色い大輪の花……高校時代の恩師である、美しいジュリア……
2019年8月28日水曜日
フランス・ビアリッツでの先進七ヶ国(G7)に依る主要国首脳会議(サミット)は、26日に閉幕。1頁(ページ)の簡潔な首脳宣言を取り纏めたものの、イラン問題や世界経済・気候変動など重要課題の議論は深まらなかった。その一つの原因としては、トランプ大統領が環境問題に対しては無関心だった事が上げられる。
現代では、アマゾンと言えば《GAFA》(ガーファ)のアマゾンを真っ先に思い出す様になったが、その代わりに、南米・ブラジルの本物のアマゾンの密林(ジャングル)の方は、驚くべき速度で減少しつつ有り、この儘でゆけば本当に確実に永遠に地球上から消え去って仕舞うだろう。それが、一体何を意味するか?余り、否定的(ネガティブ)な事は書きたくないのだが、嘗て第二次世界大戦に於いてナチスドイツを率いたA=ヒトラーは『人類の文明は、結局最後には荒涼たる砂漠しか地上に残さないだろう』との、不吉な予言を残したらしい。
ローマ・ヴァチカンのフランシスコ法王は『アマゾンは地球の肺』で有るとして、憂慮を隠し切れない旨を表明。フランスのマクロン大統領も、アマゾン保護の為に協力を惜しまないと発表したものの、それがブラジル大統領には内政干渉で有るとして気に食わなかったらしい。だが、若しもアマゾンの森林がなくなって仕舞えば、生物に酸素を供給してくれる膨大な植物群が失われ、地球温暖化も更にどんどん悪化し続けるだろう。
「ねえ、トランプ大統領の就任式は見た?」アリスは、そうシンシアとアーロンに向かって訊いた。「ううん。難しい事は分からないわあ、あたし。アリスみたいに頭が良くはないから」と、シンシアは少し悲しそうに答えて首を振った。「僕は見たよ。最初、ユダヤ教の祝福を受けてから、次に、トランプ大統領はプロテスタントとカソリックの祝福を受けたんだよね。不思議だったな。トランプ氏自身は、長老(カルヴァン)派のプロテスタントなのに、順序が可笑しいなと思って……」「へえ。それに、トランプ氏の娘のイヴァンカはユダヤ教徒だから、即ち、彼女は在米のユダヤ人だという事になるのよね。ユダヤ人の定義は、ユダヤ人の母親から生まれたか、ユダ教徒であるという事だから。つまり、母系社会・民族なのよ」そう語ると、アリスは又、日本のMANGA少女雑誌の頁を繰った……「父系社会の場合、先祖を辿ってゆくのは比較的容易だけど、母系だと難しいのよね……」
わたしは、TOYOTA製のハイブリッド(混血主)カーである大型ヴァンのステアリングを慎重に操作し続けた。今はまだ、こうして人間が運転(ドライブ)しているが、やがて車は殆ど自動運転になりその必要もなくなるのかも知れない。又、今では、嘗ては夢の様だった水素エンジンの車も実験段階ではなく市販車として売り出されているものの、水素を供給するスタンドが少ない為に水素エンジン車(カー)は余り売れないらしい。この車は、わたし個人の所有物ではなく、施設から所長のカイルの許可を得て借り出したものなのだけれど……
一般人が使用する自家用車は勿論、兵器である戦闘機、アメリカ製F−35の進化も目覚しく、だが、日本の東北・太平洋沖で墜落し海中に沈んだF−35の操縦士(パイロット)は空間識失調の状態に陥っていたらしい。レコーダーの声を解析したところ、操縦士自身は正常に飛行している心算だったらしいのだが、実際には戦闘機は常識を超える挙動で太平洋の海面へと突っ込んで行った。もう、生身の人間は超高度なテクノロジーが満載された戦闘機を操る事は難しいのだろう。仮令、職業(プロの)軍人であっても……
「ああ、草原一杯に咲いている向日葵(ヒマワリ)の花は、さぞかし綺麗でしょうね!」そう言って、アリスは一同の顔を見回した……「草原じゃないわよ、アリス。畑で二万本位の向日葵が栽培されてるの。それとも三万本だったかしら?忘れちゃった」と、シンシア……そのシンシアは、まだ自分がジョンベネの様な境遇なのだと頑なに信じ込んでいるが、実際には彼女の家族達はごく平凡で穏健なプロテスタントで、但し父親は共和党を熱心に支持しておりトランプ大統領の施政には全面的に賛同しているらしい。
或いは、その事がシンシアが抱く奇妙な妄想に関係しているのかも知れないが詳しくは不明。彼女の担当はジョナサンだ……しかし、メキシコ国境の《壁》(ウォール)が築かれ始めてから、シンシアの症状(異常心理)は目に見えて悪化したとの事で、恐らくそこには無意識裡の心理的な因果関係が存在するのは間違いないだろう。人間、特に多感なHSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)である子供達の心・精神の仕組みは神秘に満ちている。
「なあんだ、普通の畑で向日葵は栽培されて、種子を採る訳?」「ええ、油を搾るんじゃない?」「ロマンが壊れたわあ。でも、いいけど」
2019年8月30日金曜日
トランプ大統領は、娘婿のクシュナー大統領上級顧問を側近として重用。イヴァンカの夫であるクシュナー氏は、敬虔なユダヤ教徒で(超正統派のユダ教徒と呼ぶべきなのだろうか?)トランプ氏の意向を受けてアメリカ大使館のテルアビブから聖都・エルサレムへの移転を推し進めたと指摘されているそうなのだが……しかし、実際には話は全く逆ではないのか?トランプ氏が、家族を含めた超正統派のユダヤ教徒達に操り人形(マリオネット)の様に自在に動かされているのでは?
例えば、記者会見等の際には、常にトランプ氏の背後に佇みながら機械(ロボット)の様に無表情でいながら心密かにほくそ笑んでいる風に見える、副大統領・ペンス氏。政治に疎いわたしは、ペンス氏の出自や経歴については全く知らないのだけれど……
これが若しも、ルイス=キャロルが知人の幼い娘のアリスに即興で語り聴かせた《不思議の国のアリス》や、その続編である《鏡の国のアリス》のファンタジーの世界の中で催されるお茶会なら、トランプ大統領はさだめし王様(キング)でファーストレディの夫人は王女様(クイーン)、そしてペンス副大統領はジャックとでもいったところなのかも知れない。だが、それでは魔法使いに相当するジョーカーは?
「ねえ、アリス。今、世界で起こっている事、事象は、超正統派のユダヤ教とキリスト教右派、福音派・エヴァンジェリカルとが目的の為に手を組んだシオニズムと、中東・イラン等のイスラム教との闘いが根底にあるのかしらね?」と、わたしは、慣れない車のステアリングを操作し続けながら問うた……「まあ、ごく単純に簡略化をして言えばそうじゃないの?実際は、もっと色んな勢力が複雑怪奇に絡み合ってるんでしょうけど。まるで、トルコ絨毯の模様みたいに。トルコのエルドアン大統領は、ロシアのプーチン大統領と……」
「シオニズムってなあに?アリス?」そう、シンシアは訳が分からず当惑した様子で尋ねた……「そうねえ。イエス=キリストの時代よりも遥かに古くから始まって、第二次世界大戦、ナチスドイツ支配下では一見大人しく潜伏していた様にも見えた、ユダヤ人勢力の企ての事よ。アーロンもユダヤ系だけど」「僕は、父がポーランド出身の修正主義者で、母はイスラエルのキブツで奉仕活動をしていたんだ。父は、アーリア系だったんだけれど」そう言えば、アーロンの瞳は青みがかった茶褐色だ……
2019年8月31日土曜日
アリスは又、急激に血圧が低下して一時的に意識を失い危険な状態に陥った。しかし、わたしはどうすべきか分からず、車をガソリンスタンドに入れて兎に角なるべく涼しい日陰に停車させた。ボンネットの上で卵焼きが作れそうな、この異常な暑さ……
「大丈夫?アリス?」と、わたしは意識のないアリスに向かって、殆ど無意味な問い掛けをした。シンシアは泣いていたし、アーロンにも勿論どうにも出来はしない……それから、スマートフォンで付近に在るモーテルを調べ、その方角へと向かう……
「お母さん(ママ)!そんなにワインやお酒ばかり飲んじゃ駄目よ!冷蔵庫に鍵を掛けても、直ぐに又それを壊しちゃうのよね」そう、アリスは譫言を言っていた……「お父さん(パパ)は、本当の血の繋がったあたしのパパじゃないんでしょう?それ位、本当はちゃんと知ってるのよ。小さな子供だと思って馬鹿にしないで!」「お母さん、中東で本当は何があったのよ?唯単に、戦闘の後方活動をしていただけではないんでしょう?南スーダンの内乱では、政府軍と人民解放軍、それにPKOの兵士達が入り混じって……現地の女性達は……」「兵士に強姦(レイプ)されたんだそうよね?それでも、殺されるよりはまだマシだからと、女性達は乱暴されながら目配せをし合って……」
南スーダン……そうしたアリスの譫言を聴いて、わたしは以前に日本人女性のTomokoからメールで教えられた話を思い出した。
『日本では、南スーダンへの自衛隊(SDF)の派遣が大きな問題になっていました。防衛相は、曖昧な発言ばかりを繰り返し……自衛隊の、現地での日報の存在について……』『ところが、その後暫く経って書店へ行くと……首都圏の東京などの様な、大都市に在る様な立派な書店ではありません。東北・三陸の港町のショッピングセンター内の小さな書店です。そこで、或る時わたしは、南スーダンの日報が平積みにされて販売されているのを見掛けて、非常に驚きました。ショッキングで、手に取って見る事もしなかったので、中身については分かりませんが……』『大東亜戦争の敗戦後、アメリカGHQの統治下で作られた日本の所謂平和憲法は、確実に改憲が行われるのだろうと思います。自衛隊(SDF)が明記され、その事にも無感覚になり、大東亜戦争や広島・長崎両市への原爆投下も忘れさられて仕舞うでしょう。それが、奇妙な日本人達の国民性なんです。残念ながら……』
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戦争の国のアリス
2019/8/24(土)午後0:47
2019年8月18日日曜日
世界は相変わらずだ。もう、それについて幾ら書き綴ってみたところで仕方もあるまい。シンシアに「メアリー先生。何故、人間は戦争をし続けるんですか?一体、誰が本当に心からそれを望んでいるの?」と訊かれ、わたしは咄嗟に言葉を失い困惑して黙り込んで仕舞った。果たして、シンシアにどう説明すれば上手く理解して貰えるのだろう?
だが、その時、アーロンがわたしに代わって「それは、アメリカや世界中の経済が、戦争に依存しているからだよ」と、シンシアに向かって優しく語り聴かせた。だが勿論、シンシアには全く呑み込めないらしく、頻りに首を捻っていたが……「アメリカの経済が、戦争に依存してるってどういう意味?」「つまり、戦争に依る特需とでもいうのかな。昔から、ずっとそうだよ。第二次世界大戦もそうだったし……今は、トランプ大統領が、安全保障を求める国に対して巨額な最新兵器や防衛システムをどんどん売りつけているんだ。例えば、日本は最新鋭戦闘機のF−35を百機も購入したり、イージスアショアも……今度は、台湾にも沢山兵器を……」
すると又、シンシアは首を傾げた……「イージスアショアって?」「それは、敵国のミサイルを迎撃して撃ち落とすシステムの事だよ」「ふうん。アーロン、どうしてそんなに詳しいの?」「さあ、自分でも良くは分からないんだけど。僕のお爺さんは昔、ヴェトナムへ行って戦ったし、お父さんはKIAとして遺影がアメリカ政府のホームページに掲載されてるよ」「KIA?」「キルド・イン・アクション。公式に認められた戦死者の事さ」「難しくて、あたしにはちっとも分からないわ」「別に、それでいいんだよ。シンシア。無理に分かろうとする必要など全然ないんだし……」
そうした二人の遣り取りを、アリスは、退屈で堪らないといった風に聴いていた……「ねえ、ねえ。第三次世界大戦は起こると思う?シンシア。アーロン」「さあね。アリス……僕には、未来に起こる事は分からないから、予言は出来ないけれど。でも、起こっても可笑しくはないと思うよ。シリア情勢が……」「イスラエルは、アメリカの民主党の女性議員の入国を拒否したわね。白人じゃない女性議員」「ああ。若しも第三次世界大戦が勃発するとすれば、中東、イスラエルやパレスチナガザ地区、シリアが火種になるんじゃないのかな?アサド政権は……」「シリアは、もう人が住める場所じゃないわよね」
2019年8月19日月曜日
一体、何を書くべきだろうか?アリスは、依然として危険な状態が続いている。
アフガンでは又、テロ。テヘラン発……アフガニスタンの首都・カブールの結婚式場で17日夜、大きな爆発があり、アフガン内務省に依ると子供達を含む63人が死亡、180人以上が負傷し、アフガン政府は自爆テロと断定した。イスラム教スンニ派のイスラム過激派組織《イスラム国》が18日、系列の通信社を通じ犯行を認める声明を出した。
今回のテロは、カブールで少なくとも55人が死亡し、94人負傷した昨年11月の自爆テロ以来の規模と見られる。まるで、蛇蝎に狙われたウサギの様に不幸にもISISの標的(ターゲット)とされた結婚式場は、シーア派系の少数民族・ハザラ人達が多く居住するカブール西部に在り、爆発の際、同式場内には約1200人もの参列者がおり、彼らの多くもシーア派であったらしい。シーア派とスンニ派……その、イスラム教内部に於ける宗派の違い、異なる教義(ドグマ)について詳しく正確に知っている欧米人やアジア人が果たしてどれ程存在するのだろう?些か、疑問を感じる。そういう、わたし自身、国際政治や宗教・経済に関しては生憎と疎く、殆ど分からないが……
《イスラム国》は声明で、結婚式に列席していたシーア派の住民らを《異端者》として強く批判し、自爆テロはシーア派に狙いを定めた犯行だったと認めた。AFP通信などに依れば、事件の際、列席者は男性と女性で隔てられており、爆発は男性側でお祝いの演奏団がいたステージ付近で起こったらしい。或る目撃者の男性は、AFP通信に対して『男性用の場所にいた人達の殆どが死傷した』と証言、現地からの映像では激しい爆発に因り式場の天井は破壊され、床の上には血液が付着した靴などが散乱していたそうなのだが……
この、アフガニスタンでのテロ事件について、わたしとアリス、シンシア、そしてアーロンとは偶々病室にいた時、大型テレビのワールドニュースで三人一緒に見ていた。アリスは、如何にも苦しそうで、気管支が炎症を起こしている為に医師のマークから抗生物質(ステロイド剤)が含まれる吸入式の薬剤を適宜に使う様にと勧められていた。
「それにしても、良くもまあ飽きて仕舞わないものよね?実際、呆れるのを通り越して感心するわ」と、非常に苦しげに、アリスはかすれる声でそう誰にともなく言った……「ISIS、イスラム国は、本拠地のシリアなど中東ではもう居場所がなくなったのかしら?それで、今度はアフガンで戦い続ける心算なのかしらね?ねえ、シンシア?」そう、アリスは傍らのシンシアに向かって問うたが、彼女は困り果てた様子で唯もじもじとして俯いていた……「そう言えば、オサマヴィンラディンの息子も殺害されたね。犯人は又、アメリカの特殊部隊なのかどうか、良くは分からないけど」
「それにしても、凄まじい爆発だったのね。アフガニスタンの結婚式場……」わたしは、厨房で淹れて来た安い豆のブラジルコーヒーを、マグカップで飲んでいた。子供達には、簡単なフレンチトーストだけをオーブンで焼いて持って来て、後は、暑い紅茶(ダージリン)を日本の有田焼に似たマイセン磁器の茶碗に入れて差し出した……
「そうね。作業員の人達が、現場の後片付けをしているけれど……」と、シンシア……成る程、確かにシンシアの言う通りで、自爆テロが行われた後の結婚式場内では現地の作業員達がモップというか道具を使って後片付けの清掃を行っており、赤い血が混じった泥水が集められて床上に滞っているのだったが、それを見て如何にも凄まじい爆発が起こったのだなとわたしは実感した。子供達も、恐らくそうだったに違いない……例えば、ネットのニュースで記事だけを読むと、言語表現だけで本当の事件の生々しさを伝えたり受け止めたりするのは難しく、何処か矢張り抽象化をして認識して仕舞う。
「テロをした人達も、爆発で死んじゃったの?」「ええ、そうよ。シンシア……」「でも、どうして自分の命を投げ出して迄、滅茶苦茶な事をするのかしら?」「それは、宗教的に洗脳されているからよ。説明すると、とても長くなって仕舞うのだけど」「政治的、宗教的な教義(ドグマ)が、最後には総ての人間を滅ぼすのよ。旧弊な、強迫観念のドグマが……」アリスは、紅茶が入ったマイセン磁器の茶碗をうっかりと取り落として、ガチャーン!と、床の上で壊れた茶碗は激しい音をたて、シンシアは悲鳴を上げて両手で耳を塞いだ……「結局ね、これはシオニズムとそれに反駁するムスリムとの闘いなのかもね。根底にあるのは……トランプ大統領は唯のカモフラージュなのよ。本当に危険なのは、ペンス副大統領じゃない?彼は、キリスト教右派、福音派(エヴァンジェリカル)の信徒だけど、それが超正統派ユダヤ教徒と手を組んだんでしょ。共通の目的の為に」そう、アリスは静かな口調で語った……
2019年8月20日火曜日
人工知能(AI)搭載型のロボット兵器を、果たして条約で禁止をすべきか否か、又、それは可能なのかどうか。これは、SF小説の話ではなく、もう紛れもない現実なのだ。私達、二十一世紀を否応なしに生きている、生きざるを得ない現代人は非常に不幸だ。そうではないのだろうか?
話を戻すと、人工知能(AI)搭載型のロボット兵器を条約で禁止すべきかどうか、SF映画の《ターミネーター》(1〜4)を地で行く様な議論が、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で行われており、規制に積極的な途上国側と不要論を展開するアメリカ・英国・ロシアなどが対立する中、双方が歩み寄る事が可能な着地点を目指し、政治宣言の様な穏健な合意を模索する動きも出ているらしい。
アメリカの著名なSF作家・アイザック=アシモフがまだ二十世紀の中葉、1950年に発表した短編集《我れはロボット》の中で提唱した[(ロボットは)人間に危害を加えてはならない][人間からの命令に従わねばならない][(前の二項を守る限りに於いて)自分を守らねばならない]との《ロボット三原則》は有名で、SF小説は殆ど読んだ試しのないわたしでも不思議と何故か知っているのだが……
今、ジュネーブで議論が行われているロボット兵器は、このアシモフの理念の全く逆をゆくもので、正式には《自律型致死兵器システム》(LAWS:lethalautonomousweaponssystems)と呼ばれ、仮令上官などの人間が命令を下さずともAI独自の判断に依り自律的に動き敵を殺傷する兵器を指す。メディアや反LAWS団体は《キラー(殺人)ロボット》と呼ぶが、まだ開発途上で有りどの様な形状になるのかも分からないとの事。
兵器の自律化は、火薬・核に次ぐ軍事的な第三の革命と呼ばれ、極めて近未来に於いてLAWSが実戦配備される様になれば戦闘を一変させると思われ、機械で有るAIに人間の生殺与奪の権利(判断)を握らせても良いのか、責任は取れるのか?責任の所在は?という、これ迄の軍縮議論にはなかった争点が人類史上初めて生じている。
アリスの病状は最悪で、わたしはこの過酷な現実を直視しなければならない。現実逃避をしてもどうにもなりはしない。若しも、肺炎を起こせばアリスの命の炎は終わりかも知れない。小さな蝋燭(キャンドル)……その生命は、果たして何処から来たのか?人間のDNAは?又、死ねば人間は一体どうなって仕舞うのだろう?有から無へと還るのか?宇宙に、無は存在するのだろうか?
2019年8月22日木曜日
アリスの容態は最悪で、兎に角、取り返しがつかなくなって仕舞う前にと思い、ロシアの別荘風のダーチャの屋敷へと行って来た。シンシアとアーロンも一緒。シンシアは、ダーチャの屋敷へ行くのは今回が初めてでもあり、非常に喜んでいたが……
「ねえ、メアリー先生。どうしてダーチャの屋敷って呼ぶの」「それは、何故ともなく、アリスと一緒に来るうちにそう呼ぶ様になったのよ。特に、深い意味はないんだけど」「ふうん……」「ここに来ると、都市の人間社会の喧しい喧噪から遠く離れて、こころからホッとして安堵するわ。わたしは、元々ペンシルバニア州の片田舎のほんのちっぽけな町の出身だし……」
すると、アーロンは首を傾げた「でも、先生は都会がお嫌いなら、どうして故郷の町で就職をしなかったんですか?」「それは、まあ確かにそうよね。わたし、高校(ハイスクール)時代には、町の食堂(ダイナー)でウェイトレスとして働いたりもしていたのよ。それで、ボブという浮浪者(ホームレス)の男性と親しくなったり」「浮浪者?」「ええ、そう。彼は、元々は東海岸の大都市、ニューヨークかワシントンでエンジニアとして働いていたらしかったのだけど」「エンジニアって?」「さあ。もう、今となっては詳しい事は分からないわ。若しかすると、今のシリコンバレーの様な所で技術者として活躍していたのかしら?ボブは、一寸風変わり(エキセントリック)な人だったけど」
わたし達は、ダーチャの屋敷へと辿り着くと、先ずは暖炉に火を灯した。寒いという程ではなかったのだが……壁には、わたしの施設での仕事部屋と同様に、アンドリュー=ワイエスが描いた《クリスティーナの世界》や《遠雷》の複製画(コピー)が掲げられており、シンシアやアーロンは珍しげにそれを眺めていた。
「メアリー先生は絵がお好きなんですね?」「そうね。現実に疲弊し切って仕舞うと、美術(ファイン・アート)の世界に逃避したくなるの。そこには静けさがあるしね。それと、ステレオで古いレコード・アルバムも聴くわ。60年代から80年代後半くらい迄の古いロックやソウル、R&B、ジャズだのの……例えば、ピンクフロイドの《原子心母》(アトム・ハート・マザー)だとか」「アトム・ハート・マザー?」「昔、或る女性が心臓の外科手術で、ええと……生憎と、詳しくは忘れて仕舞ったわ」「変わった名前のアルバムで面白いですね」
2019年8月23日金曜日
アリスは、もう自力で歩く事は出来ず車椅子に頼っている。本人は、勿論それを非常に嫌がり悔しがっているけれど……シンシアが、必死に宥めすかしている。
「メアリー先生。あたしは、頭脳だけの存在じゃないのよ。そうでしょう?」と、アリス……「当然、そうに決まっているでしょう?何故、急にそんな事を言うの?」「だって、自力で歩く事も困難になって、まるでベッドや車椅子に頭脳だけ乗っけて生きているみたいなんだもの。哲学者、マルクス=ガブリエルの観念論は……まあ、兎も角、例えば人間がネット上のクラウドばかりに依存したら一体どうなっちゃう訳?」「そうね。科学、ITやAIを過信して依存するのは危険だと思うわ。人類は、自然環境を完全に克服する程、科学技術(テクノロジー)が進化を遂げた訳でもないのに。もっと、発展途上国を含めたインフラの整備や、自然環境の保護にも本気で目を向けるべきじゃないのかしら?」アマゾンでは(GAFAのアマゾンではなく、南米のアマゾンの事だ)ブラジルの大統領の政策の為に、広大なアマゾンの森林も枯渇し頻繁に森林火災が発生している。
疲労を覚えて、わたしはダーチャの屋敷の壁に掲げた油絵(タブロー)の複製画を眺めた。油絵(タブロー)の世界には静寂がある。以前に、インターネットで或るサイトからダウンロードした絵画は、クラシックバレエの装いに着替えている十代前半の少女が、ピアノの前の椅子に腰掛けており、その傍らには飼い犬がいて、窓からは微風が吹き込みレースのカーテンを揺らしているのだった。作者は、良く分からない。余り、思想性は感じない絵画だが、それはそれでも良いではないか。ゴッホの絵画は確かに優れているのだろうが、疲弊して仕舞う。かと言って、バンクシーの様に政治的な存在でメッセージを送信するというのも好きにはなれない。
「ねえ、メアリー先生。何か美味しいお菓子が食べたいな」そう、アリスが言うと、シンシアも目を輝かせた。「じゃあ、ライ麦入りのパンケーキを焼きましょうか?J=D=サリンジャーは……ライ麦畑でつかまえてのアメリカも、遠い過去になったわね……今は、トランプがグリーンランドを買おうとして、トランプタワーがグリーンランドに聳え立っている画像をTwitterにアップしている奇妙な時代」「朝鮮半島も大変な事になっているわよね。18日には、アメリカが中距離ミサイルの発射実験を行ったし」
2019年8月24日土曜日
ロシア北部アルハンゲリスク付近のロシア海軍ミサイル実験場で、8日に発生した爆発は、原子力を使った新型兵器の開発実験中に起きた事故だったらしいが……北極圏バレンツ海の入り江に在る洋上施設で、エンジン実験中に発生した事故では、ロシアの国営原子力企業ロスアトムの従業員五名が死亡、三名が負傷、近隣地域では爆発後放射線量が一時的ながら最大で通常の16倍に迄上昇したとの事らしい。
ロシアの別荘風の《ダーチャの屋敷》。その、広い居間(リビング)に置いた古い真空管式のステレオで、わたしはピンクフロイドの《原子心母》のレコードを掛けたが、すると、ロックの曲とは思えないクラシックの交響曲の様な音楽が流れた。
「これ、なあに?」と、酷く怪訝そうに、アリス……「ピンクフロイドという、有名なロックバンドの代表作よ。《原子心母》(アトム・ハート・マザー)」「ふうん。レディ=ガガなんかとは随分感じが違うのね?」「それは、まあ。だって、ピンクフロイドの《原子心母》は、60年代後半から70年代頃の曲が中心だもの。余り、詳しくは知らないけれど」「そんな大昔から、ロックはあった訳?」アリスやシンシア、それにアーロンらの子供達が、ピンクフロイドの存在を知らないのは全く無理もなかった。
[イフアイゴーインセインプリーズドントプットユアワイヤーインマイブレイン……]その歌詞を聴いて、アリスは益々呑み込めないという風だったが……「全然、歌詞の意味が分からないわあ。どういう事?」「つまり、これは、昔アメリカなどで行われた、精神疾患の患者達の脳髄、前頭葉を切除した外科手術の事を言ってるの」「へえ。でも、どうやって?」「アイスピックを瞼の上から突き入れて、脳の前頭葉部分を切断したり」「!?滅茶苦茶じゃないの?」「そうよ。J=F=ケネディ大統領の家族もそのロボトミー手術を受けて……まあ、そんな話は止しましょう」
「モンスター・スタディについては、メアリー先生はご存知?」「少しはね。どうして?」「あたしやシンシア、アーロンや施設の子供達は皆、心理学的な実験の被験者にされているからよ。否応もなく……その資料(データ)が、多分、戦争の際の異常心理研究などに応用されて使われるんでしょ?つまり、体のいいモルモットよね」「確かに、その通りだけど……元々は、あの施設はボランティアのNGOだったんだけどね。それを政府が……」
ロシア・ロスアトムは、10日[放射性同位元素を使った燃料エンジンの実験中に爆発した]と発表し、原子力を推進力として利用するエンジンを巡る事故だったと事実上認めた。但し、被害の実態や爆発原因は軍事機密の壁に阻まれ、不明の儘だが……
わたしは、良く考えるのだ……一体、どうして、こうした愚かな戦争や紛争、人種差別等々ばかりの世界で、奇しくも大勢の子供達と職場である施設内で出逢い、彼らの異常心理を研究しなければならないのだろうか?と……本来なら、平和で静寂に満ちた世界で、子供達にまともな教育を施し、慈しみに満ちた人間に育って欲しいと思うのだけれど。
「ねえ。シンシア……ガンダムの、赤い彗星シャアはね、本当は革命軍に入る筈じゃなかったのよ」「そうなの?」「ええ。彼には、瓜二つの親戚の青年がいて、元々はその青年が革命軍に志願したのを……」アリス達は、ジャパニメーションの話に興じている。生憎と、このわたしには全く良く分からないのだけど。「この、ダーチャの屋敷は静かでいいけど、寂しいわね。インターネットの環境はどうなのかしら?」そう言って、シンシアはきょろきょろと辺りを見回した。アリスは金髪(ブロンド)だが、シンシアはややブルネットがかっていて、瞳の色も灰青色に見える。まるで、シリアの子供達の様に……
「まあ、Wi-Fiの電波は飛んでるんじゃない?でも、わたし達が使えるパソコンやスマートフォンはないし、デジタルネイティブに取っては酷だわねえ。それこそ、まるでドイツ系移民で敬虔なキリスト教集団のアーミッシュみたいだわ。《刑事ジョンブック目撃者》の映画では見たけど……」
アーミッシュ……わたしは、出来ればアリスや子供達を本物のアーミッシュの集落へと連れて行きたかったものの、叶わなかった。昔、アーミッシュの村で、男がライフルを乱射した無差別銃撃テロの様な事件が起きたのだが……その現実の事件では、少女が幼い妹を庇って撃たれ死亡した。もう、何年前になるだろうか?アリスの母親は、死後検死に回され、夫が放ったライフルの特徴と銃痕とは完全に一致。そして今又、イランとの核合意からアメリカは離脱し、ホルムズ海峡の防衛の問題を巡って中東は一触即発の様な危険な状態に陥っており、その根底にはアメリカ・トランプ大統領の唯物主義とイランの政権を握る人物との宗教を含めた価値観・世界観の相違があって、紛争の一言では片付けられない。
トランプ・アメリカ政権は、韓国が大方の予想に反して《日韓軍事情報包括保護協定》(GSOMIA)の破棄(終了)を決定した事を、強く批判している。手の付けられない暴れん坊とは雖も、トランプ大統領が同盟国に対して強い調子で非難する事は珍しいそうなのだが……日本と韓国との対立構造が、遂に安全保障の分野に迄波及した事で、日米韓の軍事的連携が崩れ、東アジアに於ける安全保障環境の不安定化に繋がりかねない為だ。
時系列に沿って、順序立って言えば、韓国政府は22日《日韓軍事情報包括保護協定》(GSOMIA)破棄を決めたのは、日本への融和姿勢も見せ始めていた文在寅(ムン=ジェイン)政権が内政上の苦境に陥り、再び態度を硬化させた為とも見られる。
『(GSOMIA破棄は)電撃的に決まった様だ』韓国政府関係者は、そう、日本のメディア(大手新聞の記者)に対して語ったそうなのだけれど……それは、日本の東北地方で暮らすTomokoが23日の午後(日本時間)にメールで報せてくれた。[日本では、この前、あいち(愛知)トリエンナーレ2019表現の不自由展]という展覧会が催されたのですが、右翼を想わせる人物の、名古屋市長が主催者に抗議した為に中断されて仕舞いました。民主主義の根幹である、表現の自由が市長の検閲の様な形でとん挫を余儀無くされたのは、非常に残念な事です]
[中国では、ノーベル平和賞を受賞された劉暁波氏の問題も御座いましたが……劉暁波氏が亡くなられてから、劉氏の奥様は欧州へ亡命為さったという風にも聴きましたけれど。奥様は、深刻な鬱病を患って御出との事で、本当に痛ましくお気の毒に感じます][話が逸れましたが、日本では今、韓国に対する悪感情が高まっているのか、或いはそんな風に政府やメディアに依って印象操作されているのかも知れません。だとすれば怖ろしい事です……嘗て、日本では大正デモクラシーが終わってから、軍部が暴走し、又、日本新聞等のメディアが戦争ムードを煽って日米開戦に至りましたから。もう二度と、あの愚かな過ちを繰り返してはならないのです……]
「戦争戦争って言うけど、実感としてはどうも良く分からないわあ。シンシア、貴方はどう思う?」アリスは、車椅子の上からもどかしそうにそう問うた……「あたしも、映画でしか知らないわね。例えば、トム=クルーズが主演の《7月4日に生まれて》だとか。あれは、一体何の戦争?」「さあー。湾岸戦争かイラク戦争じゃないの?……」
《戦争の国のアリス》……アリス=R=スミス、そして友達のシンシアとアーロン。シンシアは、名前の通りに誠実な少女で、まだ裏腹もない。《ダブル・ディーラー》、二心を持つ者という言葉があるけれど、大人に成長すればそれは寧ろ当たり前の事だ。他者の内心を忖度し、その場の空気を巧みに読む事、コモンセンスを身に付ける事……それが、社会人としての最低限の規則(ルール)だった筈なのだが、ドナルド=トランプ氏の登場以来それは最早アメリカ合衆国の常識ではなくなって仕舞ったかの様だ。
「ところで、INFってなあに?」と、シンシア……「それは、中距離核兵器の……18日に、アメリカはその中距離ミサイルの実験を行ったわよね。それで、ロシアのプーチンや中国の習近平(シー=ジンピン)はカンカンになって怒っているのよ。特に、プーチンは……」
プーチン大統領は、昨年の年次教書演説でアメリカのミサイル防衛(MD)システムを念頭に、小型原子炉を塔載した原子力推進式巡航ミサイル・ブレベスニクや、マッハ10で飛行する極超音速ミサイル・キンジャルなど開発中の新兵器を次々と紹介し、アメリカへの対抗意識を露わにさせている。因みに、ブレベスニクは航続距離が[事実上、無限](プーチン氏談)とされ、核弾頭も搭載であるらしい。北朝鮮が、七月末から日本海(東海)に向かって発射し続けている飛翔体・短距離弾道ミサイルは果たしてどうなのだろう?核弾頭は塔載可能なのだろうか?
アメリカが、INF条約で禁じられていた地上発射型の中距離巡航ミサイル実験を18日に実施し、MDシステムの迎撃ミサイル発射施設を展開するルーマニアやポーランドにロシアを射程に収める中距離ミサイルが配備される可能性が現実味を帯びて来た事から、ロシアの軍事評論家・ウラジーミル=エフセーエフ氏は『防御だけに限らず、攻撃の際にも使用出来るアメリカのMDシステムが軍拡競争を招いている』として懸念を表明。単純に考えて、この儘でゆけば第三次世界大戦が惹き起こされるのでは?と、思って仕舞うのは杞憂に過ぎるというものだろうか?それならば、まあ良いのだが……しかし、戦争とは何処か人間の理性や合理主義精神に依る均衡(バランス)の枷が外れたところで、交通事故の様に不意に勃発するものの様にも思える。そもそも、この狂気染みた(クレイジー)な世界が絶対に均衡(バランス)を崩さないと考えるのは《神話》ではないのか?
更に、二十一世紀という不幸な時代を生きる、私達は、AIを塔載した自律型致死性兵器について迄考えを巡らせねばならない。
「ねえ、これは何という映画?」「ターミネーターよ。続編の2と3、それに4もあるみたいよ」子供達は、大型テレビで自律型致死性ロボットの映画を見てはしゃいでいる……「ターミネーター2は、何時頃制作されたのかしら?」「大体、三十年前くらいみたい」「ふうん。それじゃあ、パソコンやスマートフォンはまだ余り一般的な家庭には普及していなかった頃かしらね?そう言えば、この映画にはスマートフォンは出て来ないわ。何となく不自然で変だな?と、思ったんだけど」アリスは、ポテトチップを袋から出して食べながら、夢中になってテレビの液晶画面を見詰めている……「最初のターミネーターでは、このロボットは悪役で生身の人間の男性と戦っていたのに、続編の2では少年を救う英雄(ヒーロー)に変わっているのよ。まあ、その方が面白いし良いけど。ヒロインの女性も、続編では随分と体を鍛えたのね。別人みたい」
アリスとシンシアとは会話も弾んでいるのだが、アーロンは独りで取り残されポツンと所在なさそうにしていた。元々、非常に大人しい性質なのだけれど……
「だけどさあ、AIも例えば、今ではアメリカの州に依っては警察の捜査に導入されてるんでしょう?前に、テレビのドキュメンタリー番組で見たんだけれど。麻薬の捜査だとか、事前に犯罪が起こりそうな場所や人物をAIが特定して、そこへ警察が逮捕に向かうのよね」「でも、それじゃあ物事の順序があべこべで、可笑しな事になって仕舞うんじゃない?鶏(ニワトリ)が先か、卵(タマゴ)が先か……」
わたしは、子供達は好きな様にさせて置いて、台所(キッチン)へと行きコーヒーメーカーで温かいコーヒーを淹れ、MOREのメンソールの箱を懐から出して火を灯した。ライターは、不便なのだが、わざわざロンソンの古いタイプのオイルライターを使用している。昔は、人類は、唯単に煙草に火を点けるのにも、これ程の大袈裟な機械を必要としたのだ。今となっては、寧ろ、そんな時代の方が懐かしく慕わしく感じられるけれど……全く、本当に奇妙なもので……
兎に角、時代は変遷してゆくし、それを止める事は誰にも出来はない。川の流れの様なものだ……水の流れを、どう遣って食い止められるだろうか?わたしは、疲れ果てて、二本目のメンソール煙草を口に咥えた……
2019年8月25日日曜日
殆ど毎日の様に、こうした非常に陰鬱な事ばかりを書き記さねばならない事に、わたしも一応は現生人類・ホモサピエンスの一員として真に遺憾に思う。
モスクワ共同発……ロシア国防省は24日、北極圏に近いバレンツ海から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「シネワ」と「ブラワ」の発射実験を行い、成功したと発表した。予定されていた訓練の一環で、SLBMの技術的能力が確認されたとしている。シネワは戦略原子力潜水艦トゥーラから、ブラワは戦略原潜ユーリー・ドルゴルーキーから発射され、北部アルハンゲリスク州と極東カムチャツカ半島の目標をそれぞれ破壊したという。
アリスは、もう完全に自力での歩行は困難で出来ない。だから、ダーチャの屋敷では、バスルームへはわたしかシンシアがアリスの車椅子を押して付き添ってゆく。
「ああ、嫌だわね。本当に忌々しいったらありゃあしないわ!」そう、悔しくて堪らないらしく、アリスは誰にともなく悪態を吐くのだが……「仕方がないでしょ、アリス。余り、そんな風にばかり言うんじゃないの!」と叱ると、アリスは酷く不満らしくぶうっと頬を膨らませ、貝の様に黙りこくった。勿論、可哀想なのだけれど……
2019年8月27日火曜日
AFP通信に依れば、イスラエル軍は24・25日、シリアとレバノンで敵対するイラン関連の施設や武装組織への攻撃を行ったらしく、先進七ヶ国(G7)首脳会議が24日に開幕したのを踏まえ、イランの危険性を国際社会に対してアピールする狙いがあるものと見られる。イスラエル軍は24日夜、シリアの首都・ダマスカス近郊でイラン関連の複数の軍事拠点を空爆、在英の民間団体《シリア人権監視団》に依ると、イランから軍事支援を受けるイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘員ら少なくとも五名が死亡した。
又、ヒズボラは25日、レバノンの首都・ベイルートに在る施設がイスラエルの無人機の攻撃を受けたと発表した。無人機には爆発物が積まれ、施設に飛来して自爆し、複数の負傷者が出たそうなのだが……しかし、その無人機が外観など果たして如何なるものであったのか、記事を読んだだけでは分からない。
中国政府が発表した、仮想敵国(まあ、アメリカだろう)へ自動攻撃を加える、AI搭載型の致死性兵器であるドローン進化型の無人飛行機が沢山飛翔し都市などの目標物を爆撃するイメージ画像を見た時には、慄然としたけれど……
アリスが、向日葵(ヒマワリ)の畑を見に行きたいと言うので、どうにか車椅子で大きなヴァンの車に乗せ連れて行く事にした。何時、容態が急変してどうなっても可笑しくはないし、兎に角、なるべくアリスの意向に沿う様にしてやりたい。シンシアとアーロンも、向日葵が何万本も植えられている広大な畑を是非見たいと言うので、一緒に車で連れてゆく。
「だけど、どうしてそんなに向日葵(ヒマワリ)の畑が見たいの?」とそう、わたしは、アリスや子供達に向かって訊いた……「逆に、向日葵が何万本も咲いている、素晴らしい光景を見たくはないんですか?メアリー先生?寧ろ、そっちの方がずっと不思議だわ」アリスは、車の中ではごく上機嫌で、漫画雑誌の様なものを熱心に読み耽っていた。「ねえ、アリス?その漫画雑誌はなに?」そう、シンシアが尋ねると、アリスはペラペラと頁を開いてわたし達全員に見せてくれた。「これは、《ちゃお》という日本で出版されているローティーンの少女向けのMANGA雑誌よ。取り寄せて貰ったの」「ふうん。じゃあ、アリスは日本語も読めるの?凄いわね」「まあ、簡単な単語なら分かる程度だけど……MANGAは、絵の方がメインだし、ただ眺めていてもある程度は意味が呑み込めるわよ」「どんな物語(ストーリー)?」「ローティーンの女の子達の、リアルな悩みだとか。十二歳くらいになって生理が始まったら、学校で無神経な男の子達に冷やかされて酷く腹を立てたり、女の子同士でスマートフォンも使って話し合ったり、保健の先生や家族に打ち明けて相談したりだとか。そんな感じ……」
ユダヤ系の少年であるアーロンは、何時もの様に気まずげに黙ってアリスとシンシアとの遣り取りに耳を傾けて聴いており、わたしはTOYOTA製の4WDの大型ヴァンを運転するのに集中していた。NISSANの、前会長のカルロス=ゴーン氏の騒動は漸く静まったらしいが……それにしても、トランプ大統領は更に中国に厳しい関税を課する様だし、アメリカと中国との貿易戦争は今後どうなって仕舞うのだろうか?
アリスは、インターネットのニュース記事で、向日葵(ヒマワリ)が無限に咲き誇っている様な畑の事を知ったらしい。ふと、わたしは、十九世紀オランダの画家・ファン=ゴッホが描いた太陽の様な向日葵の油絵(タブロー)を思い起こした。向日葵(ヒマワリ)の連作は、勿論、ゴッホの代表的な作品として世界中に広く知られているけれど。濃厚なマチエールの、黄色い大輪の花……
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戦争の国のアリス
書庫日記
カテゴリ小説
2019/8/19(月)午後3:00
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2019年8月15日木曜日
この、情報・情報・情報で溢れ返り疲弊し切って仕舞う世界。
ニューヨークの9.11同時多発テロで幕を開けた、二十一世紀は《データの時代》と呼ばれる。多種多様なデータがインターネットという井戸(イド)を通じて中東の化石燃料の様に大量に吸い上げられ、人工知能(AI)で分析され、新たな価値を生み出す源泉になりつつあり、巨大ネット企業に依る寡占が様々な波紋を広げている。
世界のデータ量は、増加の勢いが止まらない。
アメリカの調査会社IDCの推定に依ると、スマートフォンから発信されたり、監視カメラなど各種センサーが捉えたりしたデータの総量は2011年に初めて1ゼタ・バイトを超え、更に18年には33ゼタ・バイトへと急増。やがて、25年にはその五倍以上もの175ゼタ・バイトに迄達する見込みだとの事らしい。
《ゼタ》とは聞き慣れない単位だが、1の後に0が21個も並ぶ途方もない量で、ごく大雑把な試算では[世界中の砂浜の砂粒の数]とも言われるそうなのだが……もう少し正確に言えば、[地球を1ミリ四方の方眼紙で包み込んだ時の、マス目の数]の二倍が1ゼタになり、我々の文明がこれ程の膨大な情報の洪水に曝された事は嘗てなかった。正に、《コヤニスカッツィ》(常軌を逸している、狂気の沙汰)としか言えないだろう。
アリスは、朝方、人事不省の状態に陥ったものの、昼頃になって漸く少し回復。どうか、タロー(タロット)に描かれている様な、不吉な鎌を持った《死神》がまだこの子を捉えずに見逃してくれる様にと願う以外にはない。
「アリス……どうか又、元気になって頂戴。それで、シンシアやアーロンとも一緒に、ダーチャの屋敷や森へ遊びに行きましょう」ベッドの傍らから必死に呼び掛けると、アリスは薄く眼を開いた。「ああ、メアリー先生。側にいてくれたの?明け方に可笑しな夢ばかり見るのよ」「それは、どんな?」「言葉では、とても上手く説明出来ないの。アークツールス。アークツールスは御存知?」「ええ、以前にエドガー=ケーシーの本を読んだから」「この宇宙、銀河系は厳密な物理法則で成り立っているけど、総ての宇宙がそうではないのよ。全く違う法則の宇宙もある……」アリスは、青い双眸でわたしの顔を食い入る様に見詰めていた。「例えば、どんな法則なの?」「そうね。まあ、《不思議の国のアリス》や《鏡の国のアリス》みたいな、数学的ファンタジー」
2019年8月16日金曜日
北朝鮮・金正恩(キム=ジョンウン)委員長は又、16日に日本海(東海)に向かって短距離弾道ミサイルを発射したらしいのだが、アメリカではその問題についての関心が薄くメディアも殆ど報じようとはせず詳細は分からない。
何故、アメリカ政府(トランプ大統領)や国民が関心が薄いのかと言えば、北朝鮮が幾ら短距離弾道ミサイルを実験的に発射したところで、本格的なICBMとは異なりアメリカ本土に迄飛んで来る事はあり得ないだろうし、それならば『極東、朝鮮半島で気違い染みた社会主義の権力者が幾らミサイルを撃っても、自分達の生活には無関係だ』と思っている為だ。それよりは、アメリカの国民は、アリスの死んだ母親がそうだった様に自分の家庭を豊かにさせる事にばかり熱心で、アメリカと中国との貿易戦争には関心を抱いても『北朝鮮って一体何処にあるんだ?韓国や日本は?今度、出来れば大型ショッピングセンターで安い地球儀を買わねばならんな』などと考えている。
又、今はトランプ大統領は金正恩委員長を《友人》(マイフレンド)と呼び『彼からの美しい書簡を受け取った』などと語り、まるで同盟国の首長と接して擁護しているかの様な奇怪な状況だが、七月末からこれで短距離弾道ミサイルの発射は既に六度目で、流石に危険に思える。幾ら、トランプ大統領は『(北朝鮮の)ミサイル発射を問題視しない』と述べ、彼自身はその通りなのだとしても、イランに対しても強硬派で《死神》の異名を持つボルトン氏や、ポンペイオ氏の存在はどうなのか?
今日は、わたしが病室へ行くと、アリスは幸い意識がはっきりとしており、それで「北朝鮮の金正恩委員長が又、日本海側に短距離弾道ミサイルを撃ったわよ」と告げると、彼女は眉を顰めながら「ふうん。偶には、西側の中国か北のロシアに向かってミサイルを撃ってみれば良いのに。そうしたら、どうなるものか」と言って苦笑した……「でも、このタイミングは流石に危険じゃないのかしら?若しも、トランプ大統領を本気で怒らせたら。それにボルトン氏や……」「さあー。まあ、多分この世界はなあなあの馴れ合いで成り立っているんでしょ。メアリー先生。あたしには、もうそうなのだとしか思えないわ。馬鹿馬鹿しくって」「だけど、偶発的な戦争の勃発も……」「この、地球上の世界には初期異常があったんだそうよ。だから、予測不能の事態が稀に起こるんだって聴いたわ」
2019年8月17日土曜日
アリスは、一体どうなって仕舞うのだろう?だが、それを考えてばかりいても仕方がないではないか……今日は、やや大型のテレビを病室に運び込み、アリスとシンシア、そしてアーロンとも一緒に古い映画の《刑事ジョンブック目撃者》を見る事にした。古いと言っても、主演は著名なハリウッドスターのハリソン=フォードなので、それ程の大昔という訳でもない。主演女優の名前は、生憎ともう忘れて仕舞ったけれど……それと、ブルース=ウィルス主演の《ダイ・ハード》にも出演していた、ドイツ系の様に見える男優も可能な限り質素な生活を送るアーミッシュのコミュニティに属する人物として登場する。
「ねえ、ねえ。ポップコーンはないの?メアリー先生?ソーダフロートだとか、飲み物は?」とそう、アリスは苦しそうな息の下から冗談(ジョーク)を飛ばした……「ご免為さいね。今日は、そこ迄は用意が出来なかったわ。どうにか映画のDVDを用意しただけで」「刑事ジョンブック目撃者って、どこかで聴いた気がするわ。有名なの?」「そうね。兎に角、名作だと思うわ。ドイツ系移民で、厳格で質素なキリスト教徒達のアーミッシュを取り扱った、とても珍しい映画なのよ」「ふうん。ハリソン=フォードって、確かブレードランナーというSF映画にも出てたんじゃない?それに、スターウォーズ」「そうよ。スターウォーズの方が良かったかしら?」「別にいいんじゃない?スターウォーズは、銀河連邦・ドメインが戦っていた頃の記憶がイメージとして残っているらしいんだけど」「??……わたしは、時々、貴方の話が理解不能なのよ。アリス。銀河連邦は兎も角、ドメインって一体何の事?」
「それはねえ。メアリー先生……アリスったら、YouTubeで可笑しなスピリチュアルなお説教のものばかり見ているのよ。うーん、上手く説明が出来ないんだけど」と、シンシアは酷くもどかし気に語った。「スピリチュアル?」「つまりねえ。五次元の世界の高貴な存在、精霊が、地球の獰猛で暴力的なサピエンスの為に色んな事を教えてくれるみたいな」それを聴き、わたしは思わず他意なく笑って仕舞った……「ふうん。アリス、貴方でもそんな御伽噺染みた事を信じてる訳?まあ、有名なエドガー=ケイシーだとか、多少は知っているけれど。実際に、日本は東北地方の大震災で海に沈んだ部分もあったしね」著名な、睡眠中にリーディングを行ったエドガー=ケイシーは『二十世紀中に、日本の大部分が海中に沈む』という様な予言を残した。エドガー=ケイシーは、元々は写真館を営んでいた一介の写真技師に過ぎなかったらしいのだが……ところが、その経営していた写真館が火災に遭い莫大な負債を負ってから、エドガー=ケイシーは所謂霊感・スピリチュアルな能力に目覚めたという事らしい。まあ、わたしも大学で心理学・精神分析学などを専攻し学んでいた頃、ユングが超常現象の真実性について幾ら説明してもフロイトは全く聞き容れなかった為に、ユングは超能力で棚の書籍を全部落として見せた、という風な都市伝説は聴いた事があったけれど……
「それでねえ。アリスは、サナンダのメッセージというのも、YouTubeで熱心に見てるのよ」シンシアは、そう言ってアーロンの方を振り向いたが、アーロンは唯困った風な顔で黙っていた。「サナンダ?」「ええ。それは、イエス=キリストの別の名前なんです。つまり……イエス様は、古代イスラエルでマリアとヨセフとの間に生まれた訳なんですけど。ああ、どうもやっぱり説明が出来ないわあ!アーロンたら、黙ってないで助けて頂戴!」「うん。つまり、イエスはユダヤ人としての名前で、本当は……」
2019年8月18日日曜日
世界は相変わらずだ。もう、それについて幾ら書き綴ってみたところで仕方もあるまい。シンシアに「メアリー先生。何故、人間は戦争をし続けるんですか?一体、誰が本当に心からそれを望んでいるの?」と訊かれ、わたしは咄嗟に言葉を失い困惑して黙り込んで仕舞った。果たして、シンシアにどう説明すれば上手く理解して貰えるのだろう?
だが、その時、アーロンがわたしに代わって「それは、アメリカや世界中の経済が、戦争に依存しているからだよ」と、シンシアに向かって優しく語り聴かせた。だが勿論、シンシアには全く呑み込めないらしく、頻りに首を捻っていたが……「アメリカの経済が、戦争に依存してるってどういう意味?」「つまり、戦争に依る特需とでもいうのかな。昔から、ずっとそうだよ。第二次世界大戦もそうだったし……今は、トランプ大統領が、安全保障を求める国に対して巨額な最新兵器や防衛システムをどんどん売りつけているんだ。例えば、日本は最新鋭戦闘機のF−35を百機も購入したり、イージスアショアも……今度は、台湾にも沢山兵器を……」
すると又、シンシアは首を傾げた……「イージスアショアって?」「それは、敵国のミサイルを迎撃して撃ち落とすシステムの事だよ」「ふうん。アーロン、どうしてそんなに詳しいの?」「さあ、自分でも良くは分からないんだけど。僕のお爺さんは昔、ヴェトナムへ行って戦ったし、お父さんはKIAとして遺影がアメリカ政府のホームページに掲載されてるよ」「KIA?」「キルド・イン・アクション。公式に認められた戦死者の事さ」「難しくて、あたしにはちっとも分からないわ」「別に、それでいいんだよ。シンシア。無理に分かろうとする必要など全然ないんだし……」
そうした二人の遣り取りを、アリスは、退屈で堪らないといった風に聴いていた……「ねえ、ねえ。第三次世界大戦は起こると思う?シンシア。アーロン」「さあね。アリス……僕には、未来に起こる事は分からないから、予言は出来ないけれど。でも、起こっても可笑しくはないと思うよ。シリア情勢が……」「イスラエルは、アメリカの民主党の女性議員の入国を拒否したわね。白人じゃない女性議員」「ああ。若しも第三次世界大戦が勃発するとすれば、中東、イスラエルやパレスチナガザ地区、シリアが火種になるんじゃないのかな?アサド政権は……」「シリアは、もう人が住める場所じゃないわよね」
2019年8月19日月曜日
一体、何を書くべきだろうか?アリスは、依然として危険な状態が続いている。
アフガンでは又、テロ。テヘラン発……アフガニスタンの首都・カブールの結婚式場で17日夜、大きな爆発があり、アフガン内務省に依ると子供達を含む63人が死亡、180人以上が負傷し、アフガン政府は自爆テロと断定した。イスラム教スンニ派のイスラム過激派組織《イスラム国》が18日、系列の通信社を通じ犯行を認める声明を出した。
今回のテロは、カブールで少なくとも55人が死亡し、94人負傷した昨年11月の自爆テロ以来の規模と見られる。まるで、蛇蝎に狙われたウサギの様に不幸にもISISの標的(ターゲット)とされた結婚式場は、シーア派系の少数民族・ハザラ人達が多く居住するカブール西部に在り、爆発の際、同式場内には約1200人もの参列者がおり、彼らの多くもシーア派であったらしい。シーア派とスンニ派……その、イスラム教内部に於ける宗派の違い、異なる教義(ドグマ)について詳しく正確に知っている欧米人やアジア人が果たしてどれ程存在するのだろう?些か、疑問を感じる。そういう、わたし自身、国際政治や宗教・経済に関しては生憎と疎く、殆ど分からないが……
《イスラム国》は声明で、結婚式に列席していたシーア派の住民らを《異端者》として強く批判し、自爆テロはシーア派に狙いを定めた犯行だったと認めた。AFP通信などに依れば、事件の際、列席者は男性と女性で隔てられており、爆発は男性側でお祝いの演奏団がいたステージ付近で起こったらしい。或る目撃者の男性は、AFP通信に対して『男性用の場所にいた人達の殆どが死傷した』と証言、現地からの映像では激しい爆発に因り式場の天井は破壊され、床の上には血液が付着した靴などが散乱していたそうなのだが……
この、アフガニスタンでのテロ事件について、わたしとアリス、シンシア、そしてアーロンとは偶々病室にいた時、大型テレビのワールドニュースで三人一緒に見ていた。アリスは、如何にも苦しそうで、気管支が炎症を起こしている為に医師のマークから抗生物質(ステロイド剤)が含まれる吸入式の薬剤を適宜に使う様にと勧められていた。
「それにしても、良くもまあ飽きて仕舞わないものよね?実際、呆れるのを通り越して感心するわ」と、非常に苦しげに、アリスはかすれる声でそう誰にともなく言った……「ISIS、イスラム国は、本拠地のシリアなど中東ではもう居場所がなくなったのかしら?それで、今度はアフガンで戦い続ける心算なのかしらね?ねえ、シンシア?」そう、アリスは傍らのシンシアに向かって問うたが、彼女は困り果てた様子で唯もじもじとして俯いていた……「そう言えば、オサマヴィンラディンの息子も殺害されたね。犯人は又、アメリカの特殊部隊なのかどうか、良くは分からないけど」
「それにしても、凄まじい爆発だったのね。アフガニスタンの結婚式場……」わたしは、厨房で淹れて来た安い豆のブラジルコーヒーを、マグカップで飲んでいた。子供達には、簡単なフレンチトーストだけをオーブンで焼いて持って来て、後は、暑い紅茶(ダージリン)を日本の有田焼に似たマイセン磁器の茶碗に入れて差し出した……
「そうね。作業員の人達が、現場の後片付けをしているけれど……」と、シンシア……成る程、確かにシンシアの言う通りで、自爆テロが行われた後の結婚式場内では現地の作業員達がモップというか道具を使って後片付けの清掃を行っており、赤い血が混じった泥水が集められて床上に滞っているのだったが、それを見て如何にも凄まじい爆発が起こったのだなとわたしは実感した。子供達も、恐らくそうだったに違いない……例えば、ネットのニュースで記事だけを読むと、言語表現だけで本当の事件の生々しさを伝えたり受け止めたりするのは難しく、何処か矢張り抽象化をして認識して仕舞う。
「テロをした人達も、爆発で死んじゃったの?」「ええ、そうよ。シンシア……」「でも、どうして自分の命を投げ出して迄、滅茶苦茶な事をするのかしら?」「それは、宗教的に洗脳されているからよ。説明すると、とても長くなって仕舞うのだけど」「政治的、宗教的な教義(ドグマ)が、最後には総ての人間を滅ぼすのよ。旧弊な、強迫観念のドグマが……」アリスは、紅茶が入ったマイセン磁器の茶碗をうっかりと取り落として、ガチャーン!と、床の上で壊れた茶碗は激しい音をたて、シンシアは悲鳴を上げて両手で耳を塞いだ……「結局ね、これはシオニズムとそれに反駁するムスリムとの闘いなのかもね。根底にあるのは……トランプ大統領は唯のカモフラージュなのよ。本当に危険なのは、ペンス副大統領じゃない?彼は、キリスト教右派、福音派(エヴァンジェリカル)の信徒だけど、それが超正統派ユダヤ教徒と手を組んだんでしょ。共通の目的の為に」そう、アリスは静かな口調で語った……
2019年8月20日火曜日
人工知能(AI)搭載型のロボット兵器を、果たして条約で禁止をすべきか否か、又、それは可能なのかどうか。これは、SF小説の話ではなく、もう紛れもない現実なのだ。私達、二十一世紀を否応なしに生きている、生きざるを得ない現代人は非常に不幸だ。そうではないのだろうか?
話を戻すと、人工知能(AI)搭載型のロボット兵器を条約で禁止すべきかどうか、SF映画の《ターミネーター》(1〜4)を地で行く様な議論が、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で行われており、規制に積極的な途上国側と不要論を展開するアメリカ・英国・ロシアなどが対立する中、双方が歩み寄る事が可能な着地点を目指し、政治宣言の様な穏健な合意を模索する動きも出ているらしい。
アメリカの著名なSF作家・アイザック=アシモフがまだ二十世紀の中葉、1950年に発表した短編集《我れはロボット》の中で提唱した[(ロボットは)人間に危害を加えてはならない][人間からの命令に従わねばならない][(前の二項を守る限りに於いて)自分を守らねばならない]との《ロボット三原則》は有名で、SF小説は殆ど読んだ試しのないわたしでも不思議と何故か知っているのだが……
今、ジュネーブで議論が行われているロボット兵器は、このアシモフの理念の全く逆をゆくもので、正式には《自律型致死兵器システム》(LAWS:lethalautonomousweaponssystems)と呼ばれ、仮令上官などの人間が命令を下さずともAI独自の判断に依り自律的に動き敵を殺傷する兵器を指す。メディアや反LAWS団体は《キラー(殺人)ロボット》と呼ぶが、まだ開発途上で有りどの様な形状になるのかも分からないとの事。
兵器の自律化は、火薬・核に次ぐ軍事的な第三の革命と呼ばれ、極めて近未来に於いてLAWSが実戦配備される様になれば戦闘を一変させると思われ、機械で有るAIに人間の生殺与奪の権利(判断)を握らせても良いのか、責任は取れるのか?責任の所在は?という、これ迄の軍縮議論にはなかった争点が人類史上初めて生じている。
アリスの病状は最悪で、わたしはこの過酷な現実を直視しなければならない。現実逃避をしてもどうにもなりはしない。若しも、肺炎を起こせばアリスの命の炎は終わりかも知れない。小さな蝋燭(キャンドル)……その生命は、果たして何処から来たのか?人間のDNAは?又、死ねば人間は一体どうなって仕舞うのだろう?有から無へと還るのか?宇宙に、無は存在するのだろうか?
2019年8月22日木曜日
アリスの容態は最悪で、兎に角、取り返しがつかなくなって仕舞う前にと思い、ロシアの別荘風のダーチャの屋敷へと行って来た。シンシアとアーロンも一緒。シンシアは、ダーチャの屋敷へ行くのは今回が初めてでもあり、非常に喜んでいたが……
「ねえ、メアリー先生。どうしてダーチャの屋敷って呼ぶの」「それは、何故ともなく、アリスと一緒に来るうちにそう呼ぶ様になったのよ。特に、深い意味はないんだけど」「ふうん……」「ここに来ると、都市の人間社会の喧しい喧噪から遠く離れて、こころからホッとして安堵するわ。わたしは、元々ペンシルバニア州の片田舎のほんのちっぽけな町の出身だし……」
すると、アーロンは首を傾げた「でも、先生は都会がお嫌いなら、どうして故郷の町で就職をしなかったんですか?」「それは、まあ確かにそうよね。わたし、高校(ハイスクール)時代には、町の食堂(ダイナー)でウェイトレスとして働いたりもしていたのよ。それで、ボブという浮浪者(ホームレス)の男性と親しくなったり」「浮浪者?」「ええ、そう。彼は、元々は東海岸の大都市、ニューヨークかワシントンでエンジニアとして働いていたらしかったのだけど」「エンジニアって?」「さあ。もう、今となっては詳しい事は分からないわ。若しかすると、今のシリコンバレーの様な所で技術者として活躍していたのかしら?ボブは、一寸風変わり(エキセントリック)な人だったけど」
わたし達は、ダーチャの屋敷へと辿り着くと、先ずは暖炉に火を灯した。寒いという程ではなかったのだが……壁には、わたしの施設での仕事部屋と同様に、アンドリュー=ワイエスが描いた《クリスティーナの世界》や《遠雷》の複製画(コピー)が掲げられており、シンシアやアーロンは珍しげにそれを眺めていた。
「メアリー先生は絵がお好きなんですね?」「そうね。現実に疲弊し切って仕舞うと、美術(ファイン・アート)の世界に逃避したくなるの。そこには静けさがあるしね。それと、ステレオで古いレコード・アルバムも聴くわ。60年代から80年代後半くらい迄の古いロックやソウル、R&B、ジャズだのの……例えば、ピンクフロイドの《原子心母》(アトム・ハート・マザー)だとか」「アトム・ハート・マザー?」「昔、或る女性が心臓の外科手術で、ええと……生憎と、詳しくは忘れて仕舞ったわ」「変わった名前のアルバムで面白いですね」
2019年8月23日金曜日
アリスは、もう自力で歩く事は出来ず車椅子に頼っている。本人は、勿論それを非常に嫌がり悔しがっているけれど……シンシアが、必死に宥めすかしている。
「メアリー先生。あたしは、頭脳だけの存在じゃないのよ。そうでしょう?」と、アリス……「当然、そうに決まっているでしょう?何故、急にそんな事を言うの?」「だって、自力で歩く事も困難になって、まるでベッドや車椅子に頭脳だけ乗っけて生きているみたいなんだもの。哲学者、マルクス=ガブリエルの観念論は……まあ、兎も角、例えば人間がネット上のクラウドばかりに依存したら一体どうなっちゃう訳?」「そうね。科学、ITやAIを過信して依存するのは危険だと思うわ。人類は、自然環境を完全に克服する程、科学技術(テクノロジー)が進化を遂げた訳でもないのに。もっと、発展途上国を含めたインフラの整備や、自然環境の保護にも本気で目を向けるべきじゃないのかしら?」アマゾンでは(GAFAのアマゾンではなく、南米のアマゾンの事だ)ブラジルの大統領の政策の為に、広大なアマゾンの森林も枯渇し頻繁に森林火災が発生している。
疲労を覚えて、わたしはダーチャの屋敷の壁に掲げた油絵(タブロー)の複製画を眺めた。油絵(タブロー)の世界には静寂がある。以前に、インターネットで或るサイトからダウンロードした絵画は、クラシックバレエの装いに着替えている十代前半の少女が、ピアノの前の椅子に腰掛けており、その傍らには飼い犬がいて、窓からは微風が吹き込みレースのカーテンを揺らしているのだった。作者は、良く分からない。余り、思想性は感じない絵画だが、それはそれでも良いではないか。ゴッホの絵画は確かに優れているのだろうが、疲弊して仕舞う。かと言って、バンクシーの様に政治的な存在でメッセージを送信するというのも好きにはなれない。
「ねえ、メアリー先生。何か美味しいお菓子が食べたいな」そう、アリスが言うと、シンシアも目を輝かせた。「じゃあ、ライ麦入りのパンケーキを焼きましょうか?J=D=サリンジャーは……ライ麦畑でつかまえてのアメリカも、遠い過去になったわね……今は、トランプがグリーンランドを買おうとして、トランプタワーがグリーンランドに聳え立っている画像をTwitterにアップしている奇妙な時代」「朝鮮半島も大変な事になっているわよね。18日には、アメリカが中距離ミサイルの発射実験を行ったし」
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戦争の国のアリス
カテゴリ小説
2019/8/3(土)午後1:40
2019年8月1日木曜日
愈々、8月になった。それにしても、この異常な猛暑……
北朝鮮が7月31日に発射したのは、ロシア製の《イスカンデル》を基(ベース)に開発した迎撃困難な新型の弾道ミサイルと見られるとの事。5月以降相次ぐ同種のミサイル発射は、米韓に対抗する兵器の実戦配備に向けた準備に加え、軍事的緊張を高めてアメリカとの非核化交渉の主導権を握る狙いが有るらしい。
どうにか、アリスとシンシアとをダーチャの屋敷・美しい森へと連れて行って遣りたいのだが……しかし、現実的に様々な要因から難しい。
「さあ、今日は英国(イギリス)風のベリージャムを挟んだサンドウィッチを作って来て上げたわよ」
そう言って、わたしは無理矢理に強張ったぎごちない笑顔を作って見せた。
「わあ、とても美味しそう!どうも有り難う、メアリー先生!」
と、アリスも何処か少しわざとらしくはしゃぐ。シンシアは、唯無邪気に本当に喜んでいるけれど…
《海の物語》
〔HISTOIREDELAMER〕の著者、ジャン=ケロールについては、ネットで調べてみても殆ど何も分からない。
Wikipediaにも載ってはいないし。
だが、兎に角、わたしは二人の子供達の為にそれを静かに朗読して聴かせるのだ。
他に、一体何が出来ようか?
この、最早完全に常軌を逸して仕舞った、アメリカ先住民・ホピ族が言う《コヤニスカッツィ》の世界の只中で。
混乱を極める次期大統領選指名争いの中で、トランプ大統領は民主党左派に《社会主義者》とのレッテルを貼る事に躍起で、トランプ陣営は民主党候補者の主張を『社会主義者のメッセージ』と切り捨て『討論会の勝者は又してもトランプ大統領だ』と自賛した。CIA等を統べる情報長官の首も挿げ替えられたし、もう、トランプ大統領の周囲にはイエスマンしかいない。
「―ジェラルディーヌはとても感動し易いんです。若し、皆が捜しているって知ったら、隠れた儘で死んで仕舞うでしょう。港を見て下さい。あの子は、水なら悪い事をしないと思っているんです。溺れれば血は出ないって言ってましたから」「―蟹さんがピーナッツを食べているのを見たわ、それに、トミーっていう栗鼠(リス)がいたの。トミーは紅い椎の実が好きだったわ。《窒息》号っていう潜水艦のマスコットだったんだって言ってたわ。―兎口の男の子がいたわ、珍しいでしょう?水に身投げした黒服の女の人もいた。引き上げたら死んでたの」
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2019年8月2日金曜日
一体、何を書くべきだろうか?最早、良く分からない……
科学技術(テクノロジー)の進展に依る変化のスピードが爆発的に加速する中、先進各国ではそうした時代の流れに先んじようと、官民挙げての取り組みを行う動きが広まっている。例えば《ゲノム解析》……ゲノム(遺伝子情報)とは、或る生物が正常な生命活動を営む為に必要な全遺伝子情報の事で、癌治療等ではゲノムを詳しく分析して適切な治療薬の選択や治療方針の決定に役立てる事が期待されている。生物の遺伝子は、四種類の塩基を謂わば文字の様に配列したメッセージを発信し、蛋白質の組成や運動を制御する事で身体を管理し、病原体への抵抗を生む。癌等、多くの難病は、正常な塩基配列の変異に因り発生するとされる。
疾病者のゲノム(遺伝子情報)を解析して病状を特定し、医療に適用する手法が初めて現実の医療サービスに適用されたのは2009年で、アメリカ・ウィスコンシン大学の研究所が、症例のない奇病で苦しむ少年の病因特定の為にゲノム解析で骨髄移植を処方したのだ。そうした成功例を契機に、多くの研究者達が力を注ぎ財団や製薬会社が巨額の研究費を投入する様になった為、僅か十年でゲノム医療は驚くべき長足の進歩を遂げた。
しかし、残念ながらそのゲノム医療も、現時点に於いてアリスの原因不明の疾病の病理の解明や治療の有効な手段とはなり得ない様だ。
今日は、アリスとシンシアは、まるで二歳歳が離れた仲の良い姉妹の様にベッドに並んで腰を掛けながらテレビの番組を見ている……「へえー。イタリアルネサンスというのは、当時衰微していたローマンカソリックの権威に反抗する様な側面もあったのね。知らなかったわ」と、アリス……「ルネサンスってなあに?どこかで聴いたみたいな言葉だけど」シンシアは、持参して来た市販の菓子袋の中から、ライ麦と干し葡萄で作られたビスケットを食べている……「ルネサンスは、十五世紀の文芸復興よ。レオナルド=ダ=ヴィンチやミケランジェロ=ブオナローティ、ラッファエロ=サンティだとかの。壁画の《最後の晩餐》や《最後の審判》、《モナリサ》(ジョコンダ)は知ってるでしょ?」「ああ、《モナリサ》なら知ってるわ。家のリビングにも飾ってあるから。お母さん(ママ)が、日曜日に近所のフリーマーケットで額縁入りで買って来たのよ。多分、偽物なのかしら?」「まあ、恐らくそうでしょうね」
世界は相変わらず……北朝鮮・金正恩(キム=ジョンウン)委員長は、2日の朝又飛翔体(ロシア製イスカンデル型の短距離弾道ミサイル)を日本海方面に向かって発射したらしい。日本の東北、IWATEの沿岸部に住むTomokoからメールが来たが……[北朝鮮が幾ら弾道ミサイルを撃とうと、日本人達はもうすっかり感覚が麻痺して仕舞ったのか、然程気にも掛けない様です。安倍首相は、北朝鮮の弾道ミサイルは日本の安全保障に対する脅威で有るとは認識していない。という様な言い方なのですが、それは誤魔化しに聴こえます。わたしは、衆院選の投票には行きませんでした……今、世界中の民主主義(デモクラシー)が一斉に危機に瀕しているのは、果たして何故なのでしょうか?]
世界的な民主主義(デモクラシー)の危機。成る程、確かにそうだ……今現在、中米から押し寄せる移民(難民)達は一体どうなっているのだろう?又、アフリカからの場合、空路で南米迄飛び、そこから更にボートや陸路でエクアドルを目指さなければならないらしい。気が遠くなる様な旅路……
中東・ホルムズ海峡周辺の安全を守る為、アメリカ主導の有志連合構想と英国が提案した商船の共同護衛構想の結成は難航しているが、共同護衛構想に因りイランとの緊張が高まり偶発的な軍事衝突が起こるとの危機感が出ている為と見られる。経済では、米連邦準備制度理事会(FRB)は、7月31日の連邦公開市場委員会(FOMC)で約十年半振りの利下げに踏み切り、景気の落ち込みが経済データに表れる前に先手を打った。トランプ大統領は何度もFRBに利下げを要求し、議長の人事もちらつかせて圧力を強めて来たし、パウエル議長は記者会見で『政治は全く考慮しない』と述べたものの、利下げに踏み切った事で結果的に政治的配慮も疑われかねない状況だ。
アリスは、テレビを見ながらシンシアに何かと親切に教えて遣っている。「古代エジプト文明は、結局一神教を受け容れる事はなかったのね。ユダヤ民族だけがヤハウェの一神教」「ヤハウェって?」「さあ、良く分からないわ。若しかしたら宇宙人か、古代にやって来た地球外知的生命体だったんじゃないかしら?」「ふうん」「そうそう!エジプトの壁画や、ルネサンス美術にもUFOだのが背景に描かれてるんだそうよ。旧約や新約聖書の記述も……でも、キリスト教原理主義者(ファンダメンタリスト)は絶対に反駁するでしょうけど」
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2019年8月3日土曜日
アメリカとロシアの中距離核戦力(INF)全廃条約や2日、失効した。今朝方、Yahooホームページからのネットのニュースで、エスパー国防長官がINF失効を受け中距離ミサイル等兵器の開発を加速してゆく、という様な報道を見たのだが、先程もう一度YahooのHPを見るともうそのニュースはなかった。一体、何故なのだろうか?若しかすると、誰かの意向で急いで削除されたのかも知れないが、良く分からない。或いは、ホワイトハウスの公式見解ではなかったという事なのだろうか?以前に、北朝鮮の非核化に関して、ボルトン氏が『完全で不可逆的な非核化以外にはあり得ない』という風に述べた際に『(ボルトン氏の発言は)ホワイトハウスの公式見解ではなかった』と、後で訂正された件があったが……
わたしには、二つの密かな目論見があるのだ。
それは、一つには施設のデータベースからアリスの痕跡をなるべく抹消して仕舞う事であり、もう一つは《不思議の国》や《鏡の国》ならぬ、この《戦争の国》で二十一世紀という驚くべき時代を生きながら、人類(ホモサピエンス)が袋小路(デッドエンド)に迷い込み抜け出せないでいる様子を具に観察し歴史的な証言を行う事。だが、それは一体何処の誰に対して?昨日、アリスがシンシアに対して語った様な、ユダヤ民族が気が遠くなりそうな古代から信奉し続けて来た、ヤハウェ、一神教の絶対的な《神》に対してだろうか?しかし、残念ながら、唯の一介の臨床心理士に過ぎないわたしが、その究極の答えを知ろう筈もない。
「今年は、英国(イギリス)のヴィクトリア女王生誕二百周年なのよ。シンシア、ご存知?」アリスは、今日は割りと具合が良いのだろうか?「ううん。そうだったの?」「ええ。それで、お菓子のヴィクトリア・サンドイッチ・ケーキというのは、甘党だった女王様の大好物だったらしいわ。尤も、甘い物が嫌いな女性はこの世に余りいないでしょうけど!まあ、ブーグローのカードで不吉な悪魔(サタン)が出たわ!エスパー国防長官が……」「エスパーって、超能力者の事?」そう、シンシアは不審げに問うた……「ええ、まあ多分そうかもね。この、地球というデコレーションケーキは、核兵器のキャンドルで一杯です!不思議な、夢の国のお茶会に行ってみたくはない?シンシア?綺麗なドレスでシンデレラみたいに着飾って」「そうね。是非一度、行ってみたいわ」
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2019年8月4日日曜日
日本の東北部・IWATEの三陸地方に住む、大学時代の親友であるTomokoからメール。
一寸、奇妙な思い出を書き綴るなら、Tomokoはオカルトやホラー映画の大ファンで古いものは有名な《エクソシスト》や《サスペリア》、その後の世代の《羊たちの沈黙》やその続編の《レッドドラゴン》などのVHSやDVDを借りて来ては、寮の部屋で見ていた。Tomokoは、長い黒髪で真っ白い肌の日本人女性で、わたしは彼女に対して特別な感情を抱かない様にと必死で務めた。尤も、今は時代も変わり、日弁連は同性婚を認めないのは人権侵害だとして政府に働き掛けているとの事だが……
「何故、そんなにホラー映画ばかり見るの?」と、或る時、Tomokoに訊いてみたのだが……「だって、気持ちが悪いけど凄く面白いじゃない?日本には、四谷怪談だとか色々あって……有名なラフカディオ=ハーンの子供は、洋画家になったのよ。Kiyoshi=Koizumi……」というのが、Tomokoの答えだった。「古典的な名作は、やっぱりウィリアム=フリードキン監督の《エクソシスト》ね!最初、中東のイランかイラクの古代遺跡から、蛇が蜷局を巻いたグロテスクな悪魔の姿をした人形が発見されるんだけど。それを、アメリカ人の考古学者が本国へと持ち帰る……」「馬鹿馬鹿しいわね。そんな、子供騙しみたいなホラー映画なんか」「それが、あながちそうとばかりも言えないのよ。メアリー。貴方にも、何時かきっと分かるんじゃないかしら?」「どういう意味?」その時、わたしには生憎と、Tomokoが一体何を言わんとしているのだか凡そ見当が付かなかった。今なら良く分かるのだけれど……
「それでね。アメリカの大都市にあるセレブの住宅街で、少女に《悪魔》が取り憑いた、可笑しな事件が起こるのよね」「へえー」「最初、少女の母親は、娘を大きな大学病院だのへ連れて行くのよ。だけど、幾ら最新の医療機器で隅から隅迄詳しく調べても、少女に肉体的な異常、疾病は認められないの。そうして、遂に業を煮やして、母親は娘をエクソシストに見せるのよ」それを聴き、わたしはTomokoには悪いなとは思いながらも、吹き出して笑いそうになって仕舞った。「エクソシストという名前なら講義で確か聴いた覚えがあるわ。ローマンカソリックの……」「ええそう。但し、ローマンカソリックよりは寧ろ正教でしょうね」
「エクソシスト……」「メアリー。貴方に取っては、多分、非合理的な下らない映画に過ぎないんでしょうね。だけど……まあ、兎に角一度、一緒にホラー映画を見てみれば?」今にして思えば、恐らくTomokoはわたしのトランスジェンダーにあの頃から疾うに気づいていたに違いない。しかし、彼女はそれを絶対におくびにも出そうとはしなかった。
「問題なのは、最初にそもそも《悪魔》(サタン;デビル)の不気味な人形が発見されたのが、中東、イランかイラクの古代遺跡だったっていう事」「わたしには、どうも貴方の話が上手く呑み込めないんだけど。Tomoko……」「そう?つまりは地政学的に……嘗て、キリスト教世界、ローマ大帝国も敵わない程の大隆盛を誇ったオスマン帝国については、メアリーも良く御存知でしょう?」「ええ、まあ。それは勿論……」「それで、約二千年前の中東・イスラエルでイエス(キリスト)が生を享けて、パレスチナ全国を巡礼する様に巡り歩いてから、祭司長や保守的な律法学者の怒りを買って捕縛される訳だけど。それで、結局イエスはゴルゴタ(髑髏)の丘で磔刑に処され、そこから原始キリスト教が発生した。ごく大雑把に掻い摘んで言えばね」
テレビ画面では、《悪魔》が取り憑いたとされるアメリカ人の少女(16歳位だろうか?)が、見るもおぞましい怪物の容貌に変わり、緑色の泡を吹き、聴くに堪えない下品で卑猥な言葉(スラング)を口にしている。「この娘は、本来なら良い処のお嬢さん。大富豪(セレブリティ)な訳だけど……それが、中東の遠い国から渡って遣って来た、《悪魔》の人形、正確にはそれから憑依した悪しき精霊の影響で、こんな醜い化け物になって仕舞う。でも、それは飽く迄もアメリカ人・アメリカ社会の側から見た場合の話よね。例えば、オスマン帝国が繁栄していた当時には、キリスト教ではなくイスラムの教えは正統的で普通だった訳でしょう?」それから、《悪魔憑き》の娘は、母親に対しても暴力を揮い悪口の限りを尽くして、ベッドの上でバタンバタン!と、物理学の法則に反した動きで暴れ回る……「キャアア!」と、無力な母親は娘の傍らで徒に悲鳴を上げているばかりだ。それで、つい見ている観客も苛々とし始める。そして、愈々《エクソシスト》(悪魔祓い師)の登場。彼、ダミアン=カラスと云う人物は、街の大学で物理学か何かを学んだ或る意味合理主義的な人物なのだけれど……
2019年8月5日月曜日
一体、何を書くべきだろう?良く分からない。この、味気の無い白黒(モノクローム)で、無慈悲な世界について幾ら幾ら書いてみたところで仕方が無いではないか?アメリカでは、又、立て続けに銃器の乱射事件が発生した。ロサンゼルス発……3日、午前10時頃、アメリカ南部テキサス州エルパソのショッピングセンターで銃乱射事件が有り、AP通信等に依ると二十名が死亡し、少なくとも二十六名が負傷、地元警察は、自動小銃で犯行に及んだ白人の男を拘束した。有色人種を狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)の可能性が高く、犯行当時の状況を調査している。又、アメリカ中西部オハイオ州デイトンで4日午前1時頃、同じく銃乱射事件が起こり、地元警察に依ると……もう、これ以上書いてみても仕方が有るまい。
アリスの容態が最悪なのは分かっている。病室内を歩く際にも、胸の胸骨か肋骨、それか横腹の辺りを片手で押さえていなければフラフラして碌に歩行が出来ない。良く分からないが、そうしなければ自分の体重・体幹を支える事が出来ないのだろう。
わたしは真剣に、何れアリスが存在しなくなって仕舞った後の世界で、どうにか独り切りでも生きてゆく方法を考えなければならないのかも知れない。先日、ネットのニュースで、日本の弁護士連盟はアメリカ等先進各国のグローバルスタンダードに鑑みて同性婚を今後は認めるべきだとして、政府にも訴え掛けているとの記事を見て驚かされたのだったが……あの、美しい伝統有る古都の京都では、綺麗な着物を身に纏った芸妓等の女性達が歩いている日本で?しかし、それは或る意味好都合で、わたしはTomokoに『何処か、日本の街で一緒に暮らしてくれないか?』と、簡潔なメールを送った。恐らく、これで彼女には充分に意味が通じるだろう。非常に聡明な女性だし……
今日も、アリスとシンシアとは、少なくとも上辺では愉しそうに燥ぎ合っている。シンシアの無邪気な明るさが、何にも増して救いだ。「メアリー先生が、今日はバナナケーキを作って来てくれたのよ。紅茶も淹れて、一緒に頂きましょう。シンシア」「そうね。アリス……ところで、ロシア風のダーチャの屋敷へは何時行けるのかしら?それとダーチャの森。物凄く、愉しみにしているんだけど」「ああ、それは……若しも、このあたしが真っ白い木製の棺の中に入れられて仕舞えば……」「棺って?どういう意味?アリス?」
2019年8月6日火曜日
今日は、嘗て第二次世界大戦に於いて、日本西部の大都市・HIROSHIMAにウラン型の原子爆弾が投下された日。その、原子爆弾の固有名は生憎と忘れて仕舞ったが……《ファットボーイ》(太っちょ)は、確か9日にNAGASAKIに投下されたプルトニウム型原爆の方だったろうか?日本に落とされた原子爆弾は、ウラン型とプルトニウム型との二種類だった。その単純な事実から推察しても、日本への原爆投下は緻密に理論的に計算され尽した実験(エクスペリメント)で有った様にわたしには思える。或いは、物理学者が数学的な計算もし尽くしたのではないのだろうか?
まだ、ペンシルバニア州の片田舎の町で学校に通いながら(時々、ダイナーでウェイトレスのアルバイトもしていたけれど)、のほほんと余り物事を深く煎じ詰めて考えもせずに毎日暮らしていた頃、わたしは恩師のジュリアが貸してくれた一冊の書籍で《マンハッタン計画》について漸く初めて知った。若しもそうでなければ、未だに数多くのユダヤ系の科学者達が集められオッペンハイマーの指揮下で行われた《マンハッタン計画》、A=ヒトラー率いるナチスドイツに対抗する為のアメリカでの一大プロジェクトを知る事はなかったかも知れない。
若しもジュリアがいなかったら、と、わたしは良く考えてみるのだが……或いは、わたしは保守的で息苦しい故郷で、唯自分のトランスジェンダーに酷く苦しみ続けて大人になり、都会の大学へも行かず何ら知的な事も行わずに長い生涯を無為に費やして終えたかも知れないのだ。だから、ジュリアには幾ら感謝をしてもし切れない。
「日本のアニメーションやMANGAのコミケに、是非行ってみたいわあ」アリスは、タブレット端末でYouTubeを見ていた。「ふうん。コミケってなあに?」と、怪訝そうにシンシア……「世界中のファン達が、好きなコスプレをして競い合うのよ。まるでハロウィーンみたいに。日本の、SHIBUYAのスクランブル交差点の辺りで行われる、ハロウィーンの乱痴気騒ぎは有名よね。あの交差点は、ハリウッド映画にも出て来るけど」「じゃあ、日本はキリスト教なの?」「別にそうじゃないんだけど。日本人は、クリスマスもハロウィーンも大好きなのよ。宗教は別として、アメリカナイズされてるんじゃない?」「じゃあ、日本の大統領とトランプ大統領は仲が良いの?」「まあ、そうね。少なくともバラク=オバマ大統領の時よりはしっくりといってるみたい」
2019年8月7日水曜日
日本では、今日は旧暦の《七夕》と云うものを祝うらしい。Tomokoが教えてくれたのだが……先日、わたしの方から送った甚だ不躾なメールに対する、Tomokoの答えは『ええ、そうですね。メアリーさん。若しも、貴方さえそれでお宜しければ、何処か日本の町でマンションかアパートでも借りて一緒に暮らしましょうか?』というものだった。多分、わたしは喜ぶべきなのだろう。イタリアの先端、青い地中海に浮かぶシシリー島にも行って暮らしたいものの、それでは恐らく島の男性に求婚(プロポーズ)されて仕舞うから駄目なのだ。その点、Tomokoなら大学時代から気心も知れているし。
他の、Tomokoからのメール……『昨日は、嘗て第二次世界大戦当時(日本では、大東亜戦争か太平洋戦争と呼ぶのですが)広島に原爆が投下された日で、広島市中区平和記念公園で平和記念式典が開催されました。あの、凄惨極まりない原爆投下から、既に七十四年目との事なのですけれど。日本の《平成》という時代に生まれた、わたしは勿論原爆投下について直接には知りません。今、被爆者(Hibakusha)や戦争体験者は、もう八十歳以上の後期高齢者になって仕舞っているんです。脱線しますが、少子高齢化は本当に切実な問題です……』『戦後間もなく、被爆者達の手記を基に白黒(モノクロ)の《ひろしま》という原爆投下後の広島の街の凄惨な様子の映画が制作されたのだそうですが、しかし当時、残念ながら配給側がアメリカに遠慮(忖度)して日本でも上映には至らなかったとの事です。実際、奇妙な話ですけれど……でも、最近、北米・ハリウッドの大手メディア会社がデジタル化し《ひろしま》は漸く公開されるのだそうで、わたしも是非見てみたい心算でおります』『その、デジタル化を行った企業の人物が、動機として[トランプ大統領の、何故、核兵器の使用は駄目なんだ?]との驚くべき科白を引き合いに出していました。しかし、現在は日本でさえも核兵器の保有や使用を容認する様な空気になっており、危険に感じています。[何故、核兵器の使用は駄目なんだ?]というトランプ大統領の言葉は、A=ヒトラーの[ユダヤ人を殲滅しろ!]に匹敵する程、怖ろしいもので、更に、ヒトラーよりも無思想であるだけに始末に負えません。彼の頭には、取引(ディール)しかないのでしょうね。日本の民主主義(デモクラシー)も危機的状況です』
「ああ。日本のコミケはさぞかし面白いんでしょうね!」そう、アリスは、タブレット端末でYouTubeを見ながら又、独り言の様に呟いている。「あたし、前にテレビニュースでもその様子を見た事があるのよ」「へえ〜」だが、シンシアにはまだ一つ上手く呑み込めないらしい……「不思議の国、ワンダーランドのお茶会もそれはそれで素敵でしょうけど、でも、もうあたしは八歳なのよ?幾らなんでも子供っぽくない?それよりは、日本のTOKYOの街へ行ってみたいわ!来年は、TOKYOオリンピックも催される事ですし!凄く面白そうよね。今、メジャーリーグで大活躍してるSyoheiOtaniや、テニスのNaomiOsaka、陸上のサニブラウン、バスケのRuiHatimuraだとか」すると、シンシアは感心した風で、ポップコーンを食べる手を休めた……「アリスは、随分日本びいきなのねえ?どうして?」「うーん。一体どうしてかしら?有名な物理科学者のアインシュタインも、親日家で、よくぞ日本みたいな国をこの世界に残しておいてくれました!神様、感謝します!と、そう呟いたのですって」その、アリスの話を聴いて、わたしは思わず吹き出して笑って仕舞った。別に、間違ってはいないのだけれど……
しかし、シンシアにはやっぱり分からなかったらしい……「一体、それってどういう意味?アインシュタインは、どうして日本という国を神様に感謝したの?」「つまり、それは宗教の事なんでしょうね。日本や日本人位、宗教に対してリベラルというか、良くも悪くも無関心なところはないのよ。アインシュタイン自身、ディアスポラのユダヤ人だった訳で……アシュケナージムというのかしら?」「??アリスは、何時も難しい言葉ばかり使うわね。まるで魔法みたい……《ナルニア国物語》は読んだ?ルイス=キャロルの。ファンタジーや童話なら、どうしても英国(イギリス)よね。ハリーポッターシリーズもそうだし、ルイス=キャロルの《不思議の国のアリス》や《鏡の国のアリス》、《ナルニア国物語》、ええと、それに《ハウルの動く城》は作者は誰だっけ?」「《ハウルの動く城》も、日本でアニメーション化されたのよ。知ってる?」すると、シンシアは半ば呆れ返った様子で首を横に振って見せた。「スタジオジブリでね。京都アニメーションの放火事件は、容疑者がまだ危篤状態らしいわ。日本は格差社会なのね。巨大なヒエラルキー構造の、まるでインドのカースト制みたいな。東南アジアからの労働者は自殺したり……」
2019年8月8日木曜日
日本にいるTomokoからは、度々メールが送られて来る……『日本は今、本当に重大な民主主義(デモクラシー)の危機に瀕しています。メアリーさん……大学時代は本当に愉しかったですね。それを思い出すと、わたしは不覚にも泣き出して仕舞いそうになります。あの頃は、勿論まだ、アメリカ合衆国の大統領はドナルド=トランプ氏ではありませんでしたが……世界は、もっとずっと単純(シンプル)で、人々は互いを尊重し合いどうにか融和しながら生きている様にも見えました。ですが、それは儚い《幻想》に過ぎなかったのかも知れません……』
『最近、《ホモサピエンス全史》という書籍を、アマゾンで購入し読んでみたのですけれど……アマゾンは、勿論GAFA(ガーファ)のアマゾンであり、ブラジルの森林の事ではありません。アメリカ人の貴方には、釈迦に説教ですよね。釈迦に説教、ブッダに対して説教をするというのは、日本語の表現で自分よりも優れている者に対してお説教を垂れて仕舞う、という意味合いです……ですが、それにしても、日本の国も本当にアメリカナイズをされました。メアリーさん……生粋のアメリカ人である、貴方には大変に失礼で申し訳ないとは思うのですが……もう、例えば文豪の川端康成が好んで描いた様な、古き良き日本、伝統などは一般的に存在しないのですよ。日本に生まれれば、子供の頃から勉強に勉強を重ねて、少しでも優秀な小学校・中学校・大学へと進学し、少しでも優秀な企業に就職する以外には仕方がないんです。それに成功した人達は、《勝ち組》という非常に嫌な差別的な言葉で呼ばれます』
『《令和》も、恐らく大変な時代になるでしょう。政治的には、今の日本は完全に首相の独裁政治ですし……災害や、東日本大震災の際の福島原発の炉心融解(メルトダウン)の様な、人為的な大事故も又起こるかも知れません。異常な犯罪も多いです。知的障害者施設で、元職員の男が無抵抗の人達を19人も殺傷したり、ZAMAという街では、サイコパスの男性に依る自殺志願者の若い女性達の殺傷事件も起こりました。更に、その後は、カリタスというカソリック系の学園に対するテロを想わせる事件、元農水省事務次官の高級官僚だった人物が家族を殺害した事件、そしてつい最近、古都・京都のアニメーションスタジオでの惨たらしい放火事件が発生し、35名が亡くなりました。怖ろしく驚くべき事です……』
2019年8月10日土曜日
さて、このわたしは《世界》について一体どれ程の事を知っているのだろうか?そう考えると、非常に心許ない様な気がしてならない。北朝鮮・金正恩委員長は又、本日10日に短距離弾道ミサイルと思われる飛翔体を日本海側に向かって発射。アメリカのメディアでは殆ど取り上げられもしないが、日本では果たしてどうなのだろうか?そう言えば、昨日9日は日本の南に位置する九州・長崎市にプルトニウム型の原子爆弾が投下された日だった。アメリカでは、未だに『原爆投下は、日米の戦争を終わらせる為に必要だった』との認識が根強いのかも知れないが、良くは分からない。
「京都アニメーションスタジオの放火事件はねえ」そう、アリスはシンシアに向かって話している。「日本の格差社会が生んだ《悲劇》なんだと思うわ」「どういう事?」シンシアは少し眠いらしい……「まあねえ。日本に限らず、アメリカも勿論そうなんだけど。そもそも、自由で平等なアメリカ社会なんてのは、真っ赤な嘘で虚像だったのよ。虚構と言っても良いけれど」「虚構?」「虚構はフィクションの事よ。例えば、漫画やアニメーション、小説や映画だの。それに、宗教や政治・経済。今、トランプ大統領は、FRBのパウエル議長に圧力を掛ける様にして金利を下げる様に要求しているけど」「へえー。又、メアリー先生が作ったバナナケーキが食べたいな」「そうね。あれは、本当に傑作で美味しかったわ!それで、経済の話だけれど、日本では金融緩和策が取られているそうよ。でも、要するに、金融資本主義というのは《幻想》の最たるものね」「どうして?」「だって、元々100ドルしかなかったお金が、何をどうやったって200ドルや300ドルに増える訳はないじゃない。魔法の財布でも持っていれば別ですけど」「??……魔法の不思議な国で、思う存分幾らでも好きなだけ美味しいケーキが食べられれば良いのに!ねえ、アリス。熊のプーさんやスヌーピーは知ってる?キティちゃんは?」「A=A=ミルンの推理小説なら読んだわ。ここの図書室にもあったから。今は、ロジェ=カイヨワの《戦争論》を読んでみたのよね。でも、アマゾンで調べたらプレミアがついていて物凄く高くて、無理みたい」すると、シンシアは暫く気まずそうに沈黙していた……「戦争は嫌ね。だって怖いし、人間が大勢死んで仕舞うんだもの。お爺ちゃんはヴェトナム戦争へ行ったのよ」
「ヴェトナム戦争?ふーん、そうだったの?貴方のお爺さんは大変だったのね。アメリカは、ヴェトナム戦争で初めて苦い敗戦を味わった訳なんだけど」アリスは又、わたしから借りているタブレット端末でYouTubeを見始めた。「どうしたの?アリス?YouTubeで一体何を見てるの?」そうわたしが訊いても、アリスは夢中になっているのか答えようとせず、代わりにシンシアが返事をした。「メアリー先生。アリスったら、預言者がどうしただとか、そんな動画ばかり見ているのよ」「預言者って?」「あたし、どうも良くは分からないんだけど。ええと、例えばブルガリアの一寸蛇みたいな怖い顔つきのお婆ちゃんで、盲目らしいわ。ジジ=ヴァンガ……」「ジジ=ヴァンガ?その名前なら聞いた事があるわ。確か、高い的中率で、ブルガリア政府の秘密事項に指定されているのだとか」
「それに、J=F=ケネディの暗殺を予言したジーン=ディクソンなどよ」と、今度はアリスが答えた……「まあ、今は不思議と、あの《キューバ危機》の時代の頃と政治や社会状況が似ているわよね。今は、勿論ケネディではなくてドナルド=トランプ氏が合衆国大統領な訳だけれど。《キューバ危機》の際には、ケネディのアメリカ政府は、トルコから核ミサイルを除去するからその代わりにキューバから核兵器を取り除かせたと聞いたわ。現在は、トランプ大統領とトルコのエルドアン大統領が、シリア北部に緩衝地帯を設けたり、クルド民族の民兵勢力にどう対応するかで……」ところが、すると又、HSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)で、必要以上にその場の空気・雰囲気を読んで過剰に反応して仕舞うシンシアは気まずそうにもじもじとしながら泣きそうな表情だった……
「アリス。貴方の話は、どうも堅苦し過ぎるわよ。もっと、お友達のシンシアにも分かり易い様に親切に話してあげれば?」と、わたし……「ええ、まあそうね。預言者と呼ばれる人間は、昔から沢山いるんですけど。皆、良く知ってるのは、《新約聖書》に登場する、イエス=キリストに洗礼を施したとされる、預言者ヨハネだの」シンシアは、漸く少し笑顔に戻った……「ああ、それなら知ってる。絵本で前に読んだのよ。ええと。ヨハネはイエスに洗礼を施してから捕らえられて、薄暗い黴臭い牢屋に入れられたのだったかしら?」「そうね。悔い改めよ!裁きの日は近い!だとか、ヨルダン川の畔で声高に叫んでいた、ヨハネでしたが……」
2019年8月11日日曜日
アリスは、明け方に急激に血圧がガクンと下がり、危険な状態に陥った。原因は、矢張り不明……殆ど人事不省の状態だったが、ふと目を覚まして「メアリー先生。どうか、シンシアを呼んで頂戴」と言うので、アリスの望み通りにして遣った。だが、まだ自分の部屋で眠っていたところを起こされて、病室へと連れて来られたシンシアは激しい動揺を隠し切れず唯泣きじゃくっていた……「メアリー先生。アリスは大丈夫?」と、訊くので、わたしは「ええ、大丈夫よ。血圧が急に下がって仕舞っただけだから」そう、返事をする以外にはなかった。
病室の窓の外からは、烏の鳴き声がガーガー!と、不吉に煩く響いて聴こえて来て、わたしは苛々して「一寸、待っててね。烏を追い払って来るから」そう告げたのだが、すると、アリスは「どうか、そんな可哀想な事は止めて頂戴」と、苦しげに言った……「でも、どうして?」「あの烏は、特別(スペシャル)でとても可愛らしいのよ。だから、フランクという愛称(ニックネーム)をつけて毎日観察しているのよ」「そうなの?」「ええ。若しかすると、あの烏の前世は人間だったのかも知れないわね。他の普通の烏達とはどことなく違っていて、風変わり(エキセントリック)なのよ。鳴き声や仕草なんかが。電柱の一番てっぺんにとまって、セキセイインコみたいにこまめに毛繕いをしているしね。彼女(ガールフレンド)もいたんだけど、最近、何故だか姿を見せないわ」
シンシアが、毎日病室に見舞いに来て交流が始まってから、アリスの性格(パーソナリティ)は明らかに少しく変化した様に見受けられた。
「アリス、呼吸をするのが苦しいの?大丈夫?」「ああ。ええ、まあ多少ね。メアリー先生、心配をして下さって本当に有り難う。何時も感謝しています。先生が拵えたバナナケーキを、シンシアと一緒に食べたいわ。それと、良く冷えた紅茶かルイボスティー」「厨房で作って来てあげるわ」「でも、お忙しいんでしょう?データベースから、あたし個人の資料(データ)を消去する作業は進んでるの?」「総て消去する訳ではないわ。主に、御両親が亡くなった事件と、それに関する貴方の異常と思われる心的反応(リアクション)についてよ」「何故、あたしの反応が異常なの?」「それは……」しかし、わたしは思わず返答に窮して仕舞った。「異常なのは、寧ろこの戦争だらけの世界の方じゃないかしら?」
カイロ発……中東・シリアのアサド政権が、反体制派の最後の拠点と言われる北西部・イドリブ県とその周辺での攻撃を激化させている。死者は四月末の攻撃開始から3000人を超え、避難民も数万人規模となった。イスラム過激派組織《イスラム国》も復活の兆しを見せており、シリア内戦が終息する見通しは全く立たない。在英の民間団体《シリア人権監視団》に依ると、ロシアの支援をアサド政権軍は9日、イドリブ県南部や隣接するハマ県北部で23回もの空襲を行った。政権軍と反体制派は今月1日に停戦を発表したが、反体制派の主力である過激派組織《レバント解放機構》が撤退を拒否したとして、政権軍は5日に攻撃を再開した。
アリスは、わたしが貸したタブレット端末でTwitterも良く見ており、多くの個人や企業・団体等をフォローしているのだが、特にボニー=キッパーマンという人物(女性なのだろうか?正体はジャーナリストか何かなのか、良く分からないけれど)のツイートを見て被害に遭った子供達の画像(カラー写真)を保存している。
「ねえ、見て見て。メアリー先生とシンシア」という風に、わたし達にもその保存した画像を見せてくれるのだが……「ほら、これはあたしみたいな金髪(ブロンド)の幼い女の子よ。やや、プラチナブロンドかしら?お人形さんみたいに整った顔立ちで可愛らしいんだけど、無表情で痛ましいわね。まあ、紛争が酷いせいで、感情も摩耗して仕舞うのかしら?」「そうかもね。アリス、どうしてシリアの子供達の画像を沢山タブレット端末に保存してるの?」わたしは、一寸不思議に感じてそう尋ねた。何故なら、その子供達の映像(写真)には、正視には耐えない凄惨なものも含まれていたから。例えば、男の子が頭部と片脚を爆撃で吹き飛ばされて、腹部からは赤い腸がはみ出していたり……
「どうしてって、それは、あたしも見ての通りまだ八歳の子供だからよ。大人と子供って、全然違う生き物なのかしら?でも、メアリー先生だって子供時代は勿論あったんでしょう?」「まあね。随分と、奇妙な子供だったと思うわ」「ボーイフレンドはいた?ああ、違うんだっけ。ご免為さい……」「いいのよ、別に。今更気にしてはいないから。ジュリアもそうだった」「ふうん」「ピンクフロイドの《夢に消えたジュリア》という曲が大好きなの。ジョン=レノンの母親も……」「あたしは、日本のアーティストのきゃりーぱみゅぱみゅが好きよ!」
不思議と、アリスは何かと日本贔屓らしい。まあ、実はわたしもそうなのだが……美術(アート)も日本のものに深い関心があるし……例えば洋画家。二日前、8月9日はNAGASAKIに原爆が投下された日だった訳だが、長崎に住んでいたKenYoshiokaという今では日本本国でも殆ど知られずに埋もれて仕舞った洋画家が、わたしは非常に好きだった。その画家の存在は、Tomokoを通じて知ったのだが……
『吉岡憲という長崎の画家は、天才肌だったものの性格破綻的なところも多分にあって、夫人をDVで悩ませたそうよ。髪の毛を掴んで部屋中を引っ張り回したり』そう、Tomokoは教えてくれた。性格破綻者……『吉岡憲が、原爆投下の影響を受けたのかどうかは良く分からないわ。被爆者の中には、広島と長崎の両市で不幸にも原爆被害に遭った人もいるのよ。御存知?』『いいえ、それは全然知らなかったわ。驚かされるわね』『でもまあ、今では広島も長崎も立派に復興を果たしたけれど。その為に、若い世代には、大東亜戦争の原爆投下と言っても中々ピンと来ない人達が多いんじゃないかしら?』『ダイトーア?』『大東亜戦争というのは、第二次世界大戦当時の日米戦などの呼称なのよ。太平洋戦争とも呼ぶけど』『どう違うの?』『大東亜戦争というのは、当時の日本側からの呼称で、太平洋戦争とは戦後になってアメリカのGHQ統制下で考え出されたものよ。沖縄戦では……』
それから、Tomokoは、AMAMIという南の島で暮らしたToshioShimaoという作家についても教えてくれた。ToshioShimaoは、太平洋戦争当時、AMAMIで船舶に依る特攻隊を指揮していた将校・隊長であったらしいのだけれど。特攻隊……ゼロ戦と戦後になって呼ばれた戦闘機に依る《KAMIKAZE》特攻隊についてなら、僅かながら知識があったものの、日本海軍の船舶に依る特攻隊の存在は、わたしは知らなかった……『でも、船舶とは言っても、地元の漁師に供出させた小舟を改造した、お粗末なものだったそうよ。だから、若しも命じられて出撃すれば戦死するのは確実だった。まあ、現代のイスラム過激派の自爆テロに似ているかしら?』『自爆テロ……でも何故、そんな命令に唯々諾々として従うの?宗教的な理念から?』『いいえ、違うわ。家族を護る為よ。それと、逆らえば非国民と呼ばれて死よりも酷い屈辱が待っていた。イスラム過激派みたいに洗脳されていたし』『だけど、日本の天皇(エンペラー)の存在は……』『天皇は、中国の様な皇帝(エンペラー)とは一寸違うわね』
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