憐れなる瓜子姫の寓話
昔々のお話です。
或る所にお爺さんとお婆さんがおり或る日の事いつもの様にお婆さんが洗濯をしに川へ行くと上流からそれはそれは大きな瓜が流れてきました。
「あらあら見事な瓜ねぇ。折角だから拾ってお爺さんと食べてみようかしら。瓜こっちにおいでこっちにおいで。」
お婆さんがこう言うとまるで言葉が解ったかの様に瓜はお婆さんの側へ寄ってきました。
こうして特に苦労する事無く瓜を手に入れお婆さんは家路へとつきました。
「お爺さん。ほらこんなに大きい瓜を拾ってきましたよ。」
「ほうこれは見事だ。早速食べてみるとしよう。」
お爺さんが包丁で割ろうとした途端瓜がひとりでに真っ二つに割れて中から可愛らしい女の子が出てきました。
勿論お爺さんとお婆さんは吃驚仰天。しかし直ぐに気を取り直し
「おおこれはきっと神様からの贈り物に違いない。大切に育てなければ。」
等と言いながらその不思議な子を育てる事に決めました。
そして女の子は少々安直とも思える「瓜子」という名を与えられたのです。
瓜子は幼い頃から可愛らしい顔をしていたのですが年月を経てますます美しくなり年頃になった頃には優しく美しい娘という事で村でも評判となっており皆は彼女を「瓜子姫」と呼んでおりました。
そしてその評判を聞きつけた庄屋さんに見初められ嫁ぐ事となったのです。
手塩にかけて育てた娘が玉の輿に乗るという事でお爺さんとお婆さんはそれはもう大喜びです。
二人は嫁入りの着物を瓜子姫に買ってやる事にしました。
「瓜子や私達は町へ行ってきますからしっかり留守番をしていておくれ。誰が来ても戸を開けてはいけませんよ。」
「はい。ちゃんと留守番をしていますからゆっくり行ってきて下さいな。」
お婆さんの言いつけに瓜子姫は素直に従いました。
その聞き分けの良さと心配りに感心しつつお爺さんとお婆さんは安心して出掛けて行きました。
お爺さんとお婆さんを見送って一人になった瓜子姫は機を織っていました。
とんからりとんからりと機織の音が響き渡ります。
その音に誘われてアマノジャクがやって来て瓜子姫を誘い出そうと戸を叩きました。
「瓜子姫開けておくれ。一緒に遊ぼうよ。」
「誰だかわからないけれど開けられないわ。私お留守番をしているの。誰が来ても戸を開けちゃいけないって言われてるの。」
瓜子姫はお婆さんの言い付けを守り冷たく断りました。
しかしそれでもアマノジャクは怯む事無く戸を叩きながら言いました。
「庄屋さんの家の裏に畑があるだろう?あそこに美味しい桃が沢山あるんだ。一緒に食おうよ。」
「あらそうなの?」
「知らなかったのかい?あそこの桃は瑞々しくて甘くて正に絶品だね。今が丁度食べ頃なんだぞ。俺が全部食っちまうぞ。」
それ程美味しいという桃を食べてみたくなり瓜子姫は機織の手を休めて戸を開いてしまいました。
「ようやく開けたな。さぁ行こう。」
そう言ってアマノジャクが家の中に飛び込んで来ました。
アマノジャクの悪い評判を前々から聞いていた為瓜子姫は露骨に嫌な顔をしました。
「本当に美味しい桃があるの?あなたが嘘つきで意地悪だっていう事は聞いているのよ。」
訝しげな顔で尋ねる瓜子姫にアマノジャクは大袈裟な身振りを付けて答えました。
「俺が嘘吐きだって?誰がそんな事言ったんだい。それは偏見ってやつだろう。大体あんたに俺が何時嘘をついた?意地悪した?人の事を知りもせずそういう事をいうなんて『心優しい瓜子姫』なんていうのは嘘っぱちだったんだな!」
アマノジャクにそう捲し立てられ瓜子姫は自分の行いを反省しました。
「ごめんなさい。あなたの言う通りだわ。」
「分かってくれたんなら別にいいさ。さぁ行こうよ。」
瓜子姫は素直にアマノジャクの後について行きました。
庄屋さんの畑に着くとアマノジャクの言った通り桃が撓に実っていました。
「ほら採ろうぜ。」
そう言うとアマノジャクは慣れた様子でするすると木に登ると桃を採って食べ始めました。
「あぁ美味い。ほんとに食べ頃だ。」
木に登った事の無い瓜子姫はただ下で眺めるだけです。
「ねぇ私にも頂戴。下に落としてくれないかしら。」
「しょうがねぇなぁ。ほらよ。」
アマノジャクが下に投げた桃を瓜子姫は一口食べましたが酸っぱくて食べられた物ではありません。
「こんなの食べられないわ。もっと甘いのを頂戴。」
「五月蝿いなぁ。これでいいだろ。」
不満気にアマノジャクが投げた桃は虫食いだらけで食べられません。
「何よこれ!ちゃんとした桃を採ってったら。」
「俺が選んだのがそんなに嫌なら自分で採りな。」
怒り出した瓜子姫にアマノジャクは素っ気無く言いました。
そこまで言われて登らない訳にはいかないと瓜子姫は慣れない手つきで木に登り始めました。
かなり高い所まで登りようやく桃に手が届くいう時でした。
突然瓜子姫に向かって上から桃が投げつけられたのです。
咄嗟に身を避けて上を見るとアマノジャクが不適な笑みを浮かべていました。
「何をするの!?危ないじゃないの!!」
そう言ったにも関わらずアマノジャクは又も瓜子姫に桃を投げつけました。
今度は避けきる事が出来ず瓜子姫は真っ逆さまに木から落ちてしまい鈍い音と共に地面に叩き付けられました。
アマノジャクは器用に木から下りると瓜子姫の様子を窺いました。
瓜子姫の首は奇妙な方向に折れ曲がりその目は唯虚空を見つめています。
いくら声をかけようとも揺すろうとも瓜子姫は目を覚ましません。
アマノジャクはそれを確認すると瓜子姫の着物を脱がせ皮膚を奇麗に剥いでそれを被り瓜子姫の着物を着ました。
そうすると少々不自然ながらもアマノジャクは瓜子姫そっくりの姿になっていました。
アマノジャクは急いで瓜子姫を茂みに隠すと走って家へ戻りました。
瓜子姫の家まで逃げて来るとアマノジャクは何事も無かったかの様に見様見真似で機織を始めました。
ぎっこんばったんぎっこんばったんととても乱暴な音が響き渡りました。
日が傾き始めた頃にお爺さんとお婆さんは帰って来ました。
「おや?今日は機の音がいつもと違うようだが・・・」
「言われてみればそうですね。瓜子や誰も来なかったかい?」
「アマノジャクが来たりはしなかったかい?」
かわるがわるに尋ねてくるお爺さんとお婆さんにアマノジャクは瓜子姫の声色を真似て答えました。
「お帰りなさい。お爺さんお婆さん。だぁれも家には来なかったわ」
「声が何だかおかしいねぇ風邪でもひいたかい。」
「そりゃ大変だ。大切な体なんだから今日はもうお休み。」
勝手に騒ぎ出したお爺さんとお婆さんを尻目にアマノジャクはほくそえむのでした。
アマノジャクは持ち前の達者な口でどうにか誤魔化しとうとう嫁入りの日にこぎつけました。
瓜子姫に化けたアマノジャクは奇麗に化粧をして美しい花嫁衣裳に身を包み庄屋さんの迎えの籠に乗りました。
籠屋は元気良く走り出し続いてお爺さんとお婆さんも籠に乗ろうとしたところ鴉の笑い声がお爺さんの耳に届きました。
瓜子姫は何処行った
籠に乗るのはアマノジャク
憐れな憐れな瓜子姫
皮を剥がされ着物奪われ
憐れな憐れな瓜子姫・・・
鴉は笑って歌を歌い続けました。
瓜子姫の少々不可解な行動の理由が解ったお爺さんはアマノジャクの乗った籠を追いかけました。
籠を止めさせお爺さんは嫌がるアマノジャクを外に引きずり出して試しに顔の皮を掴み思い切り引っ張りました。
するとなんの苦も無く皮が剥がれてアマノジャクの醜い顔が露となったのです。
「こいつめ!何て事をしてくれたどうしてくれようか!」
怒りで我を忘れたお爺さんはアマノジャクの両肩を掴み力任せに引き千切りました。
醜い悲鳴をあげながら真っ二つになったアマノジャクの体の片方は蕎麦の畑へもう片方は茅の畑へとお爺さんは放り投げました。
アマノジャクの血は蕎麦と茅の根元に染み込みそれから蕎麦と茅の根は赤くなったということです。
教訓「他人を簡単に信用するのも考え物だ」
−終了−
蛇足とも言うコメント
はい素晴らしい話ですね。殆ど脚色は有りません。歌なんかは適当に作ってしまったのですがアレンジいらない位に残酷な話です。
最初は描写をリアルにしようかと思ったのですが本人の文章力の無さに加えこれはあくまでも童話ということであっさりと書きました。あっさり加減が益々怖いし。
桃太郎のパクリの様な語り始めから猟奇的な展開へと導かれるこの話。
アマノジャクは「天邪鬼・天邪古(あまのじゃくあまのじゃこ・あまのざこ)-民話等に悪役として登場する鬼。天探女(あまのさぐめ)に由来するといわれる」との事ですが今はひねくれ者の意として使われて・・・いますか?
それにしてもお爺さんは怪力ですね。きっと昔は猟師でもしていたんでしょう。
しかしこの話の問題点はこの話が「良い子の昔話」系の本に載っていることでしょう。しかも殆ど同じ形で。瓜子姫が気絶する程度で助かるパターンが多いんですけどね。
蕎麦と茅の根が赤い理由をあんな形でこじつけるとは流石と言うかやり過ぎと言うか…。弟切草のルーツに似ているような気がしません?
そして・・・この話を当時小学校一二年生だった私は「何の疑問も持たず」読んでいたんですよ。子供って凄いな何でも鵜呑みにするところが。
日本の昔話は死人が生き返ったりしない所がグリムとかよりも現実的。
「宇治拾遺物語」なんて結構アダルトな話があったりする。昔の読み物は厳格だなんて思ったら大間違いだね。
かなりあからさまな表現が沢山ありますよ。
これでいいのか古代文学・・・?
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