農文協『聞き書・岩手の食事』〜正月料理,飢饉食
◆ かゆ料理
✔ 七草がゆ
正月七日に食べる七草がゆは,この地方ではかゆの中に七草を入れるのではなく,白米でつくった白いかゆと,別に数種類の野菜を入れた醤油汁をつくって,お歳神さまに供えて食べる。
野菜は,にんじん,ごぼう,干し大根,いもがら(里芋の茎),それにせりと高菜を入れる。 せりや高菜は雪の下で凍っているものを掘って使う。 冬に緑の野菜を食べると,心なしか精がつくように思われるものである。
✔ かぶけぇ
甘味のあるむかしかぶ (赤かぶ)を煮て,それにもちあわとそば粉を入れてとろりとさせたかゆである。「かぶねり」ともいう。かぶは,江戸時代には飢饉のさいの大切な救荒食であり,今でも主食のあわ,ひえ,そばなどの節約に役立つ糧として大切な作物である。かぶけえは,縄ないなどわら細工の夜なべ仕事の夜食として出されることも多く,凍るくらい冷たいほうが甘味が強い。 色は薄く桃色がかっており,舌ざわりはちょっとざらざらしているが,粘りがある。仕事のあと,赤々と燃えるいろりを囲んで食べる味は別でからの香りと甘味が,女や子どもたちにも大変喜ばれる。 ただ,かけえがおねしょのもとになりがちなので,母親たちの悩みのたねになっている。家では,何人分とかいわずになべいっぱい煮ておき,なくなるまで食べる。たとえば8人分として,かぶ400匁余り(1500g),もちあわとそば紛各100匁余り(375g),水5合5勺,塩少々となる。
かぶはきれいに洗い,傷のあるところや端を除き,一寸くらいにいちょう切りにし,ざるにあげて水気を切っておく。 なべに湯を沸かし,かぶを入れてやわらかくなるまで煮る。つぎに,あわを入れて弱火にし,焦げつかないようにかき混ぜ,粘りがでてきたらそば粉を一面にふりまいて入れ,塩を加えてかきまわし,火からおろす。最後に,へらでかき混ぜながら,かぶを砕いてなめらかにする。温かいものは甘くないので,なるべく冷たくする。
✔ こっけぇ
ごはんが足りないとき,これに水を加えて煮てかゆにし,その中に米のかそば粉をふり入れてかき回したものを「こっけえ」という。これは,おもに春から秋の夕食か冬の昼食に食べる。
ごはんを茶わんで2杯に,米の粉1杯,水5杯ぐらい加えて煮立て,よくかき回してつくる。最後にわずかの塩を入れる。米の粉のかわりに,まれにはそば粉を使うこともある。 こっけえを食べるときのおかずはおもに漬物。
◆ 混ぜごはん
✔ じゃがいも飯,うるい飯
大根が不足したときには, かてにじゃがいも,干し葉,うるいなどを使うこともある。じゃがいもは,秋大根ができるまでのつなぎとして使われるが,これは大根と違い,すっぽりできておいしい炊き方は大根と同じであ
るが,じゃがいもの場合は前もって煮上げる必要はなく,かて切りで細かく切って米といっしょに炊く。干し葉はあまり使うことはないが,凶作で野菜が不足したときには干し菜を細かくきざみ,一度煮上げて水にさらして使う。これは,はしにからまり,ぼさぼさしてのどの通りがよくない。
うるいがたくさんとれるころ,これをかてに入れることもある。うるいは細かく切って米といっしょに炊くが,少しやわらかいになるものの,味にくせがないので食べやすい。
◆すいとん料理
✔ ひっつみ
ひっつみ(すいとん)の名の由来は,引っ換むいう味の方言「ひっつみ」といわれている。ひっつみは,ごはんの足りないとき。 主食として食べる。冬の寒いときはからだがしんから温まり,とくにおいしい。
小麦粉を二時間ほど前に水で練り,耳たぶくらいのやわらかさにして,ふきんをかけてねせておく。だしには,かじかなどの川魚を焼いて干しておいたものや干しきのこが主で,ねぎ,ごぼう,にんじんなどの野菜を入れる。味つけは,味噌でもましでもよい。そのほか,かぼちゃ汁に入れたかぼちゃひっつみや,小豆ひっつみもある。また,かぼちゃと小豆を煮たものを混ぜ,その中にひっつみを入れて塩味をつけたものがかぼちゃ小豆ひっつみだが,小豆を略して「かぼちゃひっつみ」といっているところもある。ひっつみの具として何を入れるかは,主婦の才覚しだいであり, 土地でとれた魚や野菜を上手に使いこなして食卓をにぎわすのが,主婦の腕とされている。
✔ そばねり
そばねりは,そば料理のなかで最も手軽にできるもので,不意の来客にもすぐ間に合う。また,昼ごはんの少し足りないときや,小量としてよく食べる。家族がいろりを囲み,練り上げたばかりのものを,はしでちぎってはたれにひたしてほおばる。これは,熱いうちが身上なのである。そばねり類はぞうすいのかたちが多く,つくり方は簡単手数も要しない。 むかしかぶを加えたものは夜なべの間食とされる。干し菜入りとなると,いっそう主食の節約の意味が強くなる。
そば粉をおわんに入れて熱湯をかけ,手早くかきまぜると,そばねりはでき上がり。湯の量は,そば粉が固まるていどとする。たれは,大根おろしに澄ましを入れたものや,くるみ味噌,ねぎ味噌を使う。つくり方が簡単でとりたてのそばの風味が生きているのがうれしい。
そばはほかにも多くの用途があり,若い茎葉はおひたしにされ,また,花からは反当二・五貫の蜂蜜がとれる。 実をそのまま炒って, そば茶ともなる。茎は家畜の飼料となるが,大量に与えるとからだに白斑が生じる 「そば病」となり,妊娠中の家畜では流産のおそれがあるとされてい
る。殻は頭を冷やし,ほこりが出ないので,枕の詰めものとされている。また,茎は堆肥や燃料にもなる。
✔ おつこ汁
しめじなど,うまみの出るきのこの味噌汁におつこを入れ,さっと沸騰したらおろし,熱いうちに食べる。おつこは,とくにいつ食べるというものではないが,いたみやすいため,秋から春先にかけてつくることが多い。ふつうの豆腐のようでなく,舌ざわりがやや悪いが,きらずを無駄にしないためにそのままつくられたものの伝承なのであろう。そのため,湯豆腐のようなあっさりとした食べ方には向かず,それなりの料理が工夫されたのだろう。
✔ きらずきゃこ
ここでいうきらずは,きらずを取り除く前の呉汁を意味し,呉汁入りのぞうすいのことである。土地によっては「豆腐きゃこ」ともいっている。呉汁特有のこくのある風味でおいしい。見た目にはふつうのかゆとあまり変わらないが,色は少し黄みがかっている。ふつうは呉汁4にかゆ6くらいの割合で混ぜることが多い。
材料は,大豆30匁,あわまたはひえ60匁,塩または味噌少々,水7合,高菜を適量。ふつう,豆腐づくりの中での呉汁を利用するが,ここでは,きらずきゃこのたに呉汁をつくる場合について述べる。大豆は,洗って2晩水に浸しておき,石臼ですりつぶすが,少しくらいならすり鉢を使ってもよい。 あわなどやわらかいかゆに炊いておく。かゆに呉汁を混ぜて,と
火でさらに30分ほども煮,高菜をきざんだものを加味つけする。これは,「味噌あじよりも塩味のほうがさっぱりしてまい」という人が多い。塩漬の高菜を使うときは塩を加する。冬の宵にふさわしいぞうすいで,あわがゆに呉汁を入れたものが一番おいしい。
✔ かすおもし
「かす」は豆腐のきらず(おから)のことで,「おも」は蒸すという意味である。かすおもしは,きらずを蒸し炒めにする料理である。 きらずは凍み豆腐づくりのときにたくさんできるので,とりあえずはだんごにしてあ
せて保存し,かすおもし,きらずもち,きらず汁など,ふだんのおかずとして食べる。とにかく大量なので,牛馬のえさとしても重要な役割を果たしている。かすおもしには,必ずじゅうねの油が使われる。この独特な匂いの油で,まず細かく切ったごぼうを炒め,それからにんじん,きらず,ねぎ,塩,澄ましの順に加えて,蒸し炒めにする。家でつくる豆腐は手しぼりにするため,しぼりかすとはいっても豆乳がいくぶん含まれていて,とり合わせの野菜,じゅうね油,澄ましなどの味とよく調和する。
◆ もち料理
✔ あわもち,あめもち
行事にともなう晴れには,あわもちをつくる。あわもちは淡い黄色で,つくりたてのものはあっさりした上品な味わいになる。ただし粘りは少なく,冷めると固くなりやすい欠点がある。 そこで,すぐに食べるときはもちあわだけで搗くが,長くおくととくに固くなるため,寒もちとして長くおく場合は,じゃがいもやきらずを入れて搗き(つき),凍らせてから干しておく。 こうしておくと,かびが出にくく,夏の土用すぎまで保存できる。この場合も,米のもちと違ってちょっと黄色みがあり,そりそりとした歯ざわりでおいしい。春先の農繁期の間食として人気があるもので,仕事の弁当がわりにすることもある。あわもちの搗き方は,米のもちと大差がなく,水洗いしてから丸一日水にうるかし,ざるにあげて一時間ほど水切りをする。つぎに,せいろで50分ほど蒸し12分ほど熱冷ましをしてから,臼に入れて一五分ほど搗く。
あわもちの食べ方は米のもちと変わりがなく,くるみもち,ごまもち,小豆もち,あるいは味つけした生豆腐にくるんで白あえ風にして食べたりする。また,緑がかった色の大豆からつくったきな粉は風味がすばらしい。これをたっぷりまぶしたあめもちは最高のごちそうの一つとなっている。このあたりでは,もちを湯にくぐらせてからきな粉をまぶし,その上に自家製のあめをかけて食べる。あわあめが貴重だということもあるが,このほうがすきっと上品な味わいになるからである。
✔ 凍みもち
お歳神さまに供えるもちを搗くとき,いっしょに搗き, わらで編み, 水に浸
して凍らせ, 吊るして乾燥させたもの。暮れや正月,小正月に搗いたもちを,厳寒のころに水に浸して凍らせ,寒風にさらし,乾燥させて食べるところからこのように呼ばれ,寒もち,干しもちともいわれている。とくに,小正月に搗いた鏡もち,のしもちは,もち料理の連続で食べきれない場合もあり,春の小昼やおやつに備えて,凍らせて乾燥させ,干しもちとすることが多い。もちの場合は,そのままの形で水に浸して凍らせ,わらで編んだ円形のつとに入れ,軒下に一,二か月吊るして乾燥させる。のしもちの場合は,長方形に切ってからわらで編み,乾燥させる。この凍みもちや干しもちは,そのまま田植えのころまで保存でき,油で揚げたり,ほうろくで炒ってあられにして,子どものおやつや野良仕事の間食にわざわざ,おやつや間食用にもちを搗き,深みもちをつくることもある。そのときは,もちの中に豆を入れたり,むきぐるみやごま,のりなどを入れたりして,塩味をちっとつけて味もちにする。
✔ きらずもち
きらず(おから)とを練り合わせてつくったもちでおからもち,かすもちともいう。そばは冷めると固くなるから,串もちやけえば焼きなどのように焼きながら食べる方法がとられており,弁当にはなりにくい。その点きらずは味がそば粉とよくなじみ,これを混ぜると冷めてもふんわりとやわらかで,そばもちの欠点が補われて都合がよい!きらずは,豆をつくるときたくさん出るものだから,煮しめをつくる行事の日や仕舞いのさい,あるいは部落の寄り合いなどのときに,豆腐づくりとともにきらずもちも作る。
つくり方は,家族人分ぐらいとして,そば粉一升にきらずは自分のていどを跡に入れ,固まりをほぐしながら混ぜる。 塩を少々入れ,熱湯 を注いでよくこねる。熱湯の代わりに呉汁を入れることもある。つぎに鶏卵大にちぎり,平たく三寸ほどの円形にまとめ,ゆらゆらと浮き上がるまで五分ほど煮る。 これをざるに上げ,熱いうちにくるみ味噌をつけて食べる。 表面が乾いたら串に刺し,くるみ味噌などをつけて,いろりのおきや炭火で焼いて食べると香ばしくていっそうおいしい。 ふんわりとしているの
で,冷めてもそのまま小量やおやつとして食べられ,また焼き直すのもよい。くるみ味噌のほか,にんにく味噌,じゅうね味噌などをつけてもおいしい。 串に刺さない場合は,小判形にしたりもする。
✔ かぶけえもち
むかしかぶを煮,そば粉を混ぜて練り合わせたものである。 むかしかぶは,根にんじんのような形をして,細長くて甘味が強く,皮の色はさつまいもに似ている。かぶけえもちは,むかしかぶを栽培している二戸,九戸
の一帯に分布していて,夜なべ作業のときの夜食として出される。かぶの収穫の秋から,囲っておける期間の四月ごろまでが食べごろで,とくに冬の間は大きなろくなべ(6升炊きのなべ)にいっぱい,どんと煮ておく。このかぶを使ったものは,冷たくすると甘みが強くなる特徴があるので,なるべく冷たくし,おいしくして食べる。
やはり,秋にとれた新の風味と,かぶ独特の匂いがよく合う。舌さわりもとろりとなめらかで,ほかに甘い食が少ないため,子供たちに好まれる。囲炉裏の周りで,冷たいかぶけえもちに舌つづみを打つ。ただ,子どもが食べすぎるとおねしょの原因となるので,お母さんは渋い顔をしている。
かぶけえもちの材料は,むかしかぶ200匁,そば粉130匁,水4合,塩5匁ほど。ほかに,にんにく味噌, ごま塩などつくり方はまず,かぶのひげ根をとり,包丁で欠くように乱切りにする。 なべに水とかぶを入れて30分
ほど煮てから,そば粉を加えて練りあげ,塩で味をととのえる。単純な調理法なので,とくにこつはないが,たれのにんにく味噌をやめて塩味にする場合もある。たれはそれぞれの好みでつくるが, ごま塩を使う家もある。
✔ けえばもち類
「けえば」とは木の葉のことをいい,かしわの葉で包むことからこのように呼ばれる。形が鎌に似ているのでかま焼きほどで焼くのでほど焼き,あるいは原料からそばもちなどというところもある。いずれもそば粉が原料となっていて,中にあんを入れてとじることは共通であるが,あんは味噌,くるみ,黒砂糖のものがふつうで,塩小豆や干し栗のあんを使うこともある。また,けえばもちはかしわの葉を使うが,ほど焼き,そばもちと呼ばれるもののなかには,くまざさの葉で包む。
◆ だんご料理
✔ 浮き浮きだんご
きび,あるいはもろこしの粉のだんごを小豆汁に入れて煮たもの。この意味ありげな呼び名は,煮上がるとだんごが浮いてくるところからつけられたといわれる。また,「庭仕舞い」の別名もある。こちらは,秋仕事のいっさいが終わったときに必ずこれをつくるので,「ともかく仕事は一段落」との意味からきたのであろう。ほかに,へっちょこだんご,すすりだんご,十六だんご,大師だんごなどとも呼ばれる。へっちょことはそのことで,だんごのまん中に親指で凹みをつける。この凹みをおへそになぞらえ
た名である。すすりだんごとは,しるこをすするからで,焼きだんごや串だんごと違うことを意味しているのであろう。だんごは,そもそもが神仏への供えものとしてつくられるものである。たとえば,十六だんごは農神さまに供えるもので,必ず16個供える。材料としては,きび粉100匁,小豆80匁,塩少々。
✔ おつゆだんご
ごはんのかわりに食べる場合は,おつゆだんごにすることが多い。大根一本をひきた(せん切り)にし,にんじん,ごぼうも一本ずつきさがきにしてなべに入れ,水二升ほど加えて煮る。野菜が煮えたら,茶わん一杯くらいの味噌を加え山盛り一升の米の粉を熱湯でしとねてだんごをつくり。煮立った味噌汁の中に入れて,だんごが浮き上がるまで煮る。 ましで味つけすることもあるが,これは味噌汁のものよりさっぱりした味である。
✔ 柳ばっとう
そば粉を湯でこね,手のひらのくぼみに入れて柳の葉のような形にし,ねぎなどの野菜を入れた汁の中で煮て食べる。地域によって,柳葉,だんご,干し葉たんぽ,すりだんご,盛りぼっとうなどと呼ばれる。 このように汁の中に
だんごを入れるものを,広く「とって投げ」「とて投げ」などともいう。干し葉たんぼとは,ねぎの代わりに大根の干し葉を入れ,だんごをたんぼ槍の穂先に見立てたのであろう。 家族間での気安いいい方として,「棒がらみ」は手打ちそばをさすが,これは,のし棒を使ってこねたそば。
◆ うどん料理
✔ へなか当て,送りばっとう
送り盆の日には,どこの家でも「はっとう」(うどん)を打つ。打ち上がったら,細く切る前に,厚さ一・五分,長さ三,四寸ほどの短冊型に切って,まず仏さまに供える。
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