2020年04月25日

Ray Bradburry「火星年代記」〜2005年12月,火星のゴーストタウンに棲む人々

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Ray Bradburry「火星年代記」〜2005年12月,火星のゴーストタウンに棲む人々
レイブラッドベリ(Ray Bradburry)
火星年代記
2005年12月
火星の沈黙の町
死んだ火星の海の縁に小さな白い沈黙した街があった。
街は空っぽであった。動く人の姿もなかった。
軒を並べた店の中で一日中寂しいあかりが灯っていた。
家のドアというドアはまるで鍵をかけずに人々が飛び出して行ってしまったかのようにあけっぱなしになっていた。
その街は死んでいた。。
家の中のベッドは空っぽで冷たくなっていた。
聞こえる物音とはいえば,未だに一人で勝手に動く電線用発電機に流れる電気のうなりだけであった。街の向こうにあるロケット空港には,最後のロケットが地球に向けて飛び立っていった頃のまだ激しい焦げたような臭いが残っていた。
貸望遠鏡に10セント硬貨を入れて地球に向けてみたなら,そこに大戦争が起こっているのを見ることもできるだろう。
町の人通りのない通りを口笛を吹きながら背の高い痩せぎすの男が歩いていた。男の名はウォルター・グリップ。青い火星の深い山奥に砂金鉱山と丸太小屋を持っていて2週間に1度物静かで聡明な結婚相手を探しに街へ降りてくるのは習慣であった。しかしもう何年もの間いつも一人ぼっちでがっかりしながら丸太小屋に帰るのであった。そして一週間前町に来てみると今言ったような状態になっていたのである。
ウォルターは火星の全部の電話番号が載っている薄っぺらな電話帳の5万ほどの番号を眺めた。
ウォルターは電話帳の1番から電話をかけ始めた。応答はなかった。2番目の電話番号の主は青い山脈の向こう5000マイル彼方のニューニューヨークに住んでいた。これも返事がなかった。3番4番5番とかけていき,終いに指がピクピクして受話器を廻せなくなった。
ウォルターは火星連絡駅に,ニューボストンに,アーカディアに,ルーズヴェルト市に,およそ電話をかける人のいそうな場所に次々と電話してみた。それから旧都市の公共施設にもかけてみた。一流ホテルにもかけた。贅沢三昧に暮らしたいのが女だからだ。
ウォルターは手を打ち合わせた。そうだ。もちろんそうに違いない。ニューテキサスで一番大きな美容院に長距離電話をかけた。そもそも女は顔をパックしたりドライヤーをかけたりしながらウロウロしている場所といえば,ビロードやダイヤモンドみたいな美容院のほかない。
受話器を取り上げかける。
「もしもし?」
「もしもこれが録音ならそっちまで出かけて行ってぶち壊してやるぞ」
ウォルターは言った。
「録音じゃないわ。もしもし?ああ,もしもし?まだ生きてる人がいたのね?どこにいるの?」
女は嬉しい悲鳴をあげた。ウォルターはもう少しでヘナヘナと座り込みそうになった。
「君名前は何て言うんだい?」
「ジュヌヴィエーブ・シルサーよ 」
女は電話口で泣いていた。
「あなたの声が聞けてとても嬉しい。あなたは誰でもいいわ」
「ウォルター・グリップです」
高揚した気分で足が浮き上がる気分だ。
「もしもし?」
ジージー
ウォルターは電話を切る。かけ直すがダメだ。風でどこかの電柱が倒れてししままったんだろうか?もう一度ダイヤルを回すが電話は切れたままだ。
とにかく場所が分かっている。
ウォルターは家の外に走り,他人のガレージから車を後ろ向きに引き出して,持ち出した食料を積み込むと,時速80 km で一路ニューテキサス目指して街道を走り出した。
「ジュヌヴィエーヴ!今行くからな!」
日が沈む頃,7時間ぶっ通しの運転に疲れ果て,ウォルターは道端に車を停めた。 風がそよそよと吹いて,横たわるウォルターを包んだ。何百万年という古い火星の山々がウォルターを取り囲んでいた。
青い山間にあるチェスの駒よりも大きく儚い火星の小さな町の尖塔に星の光がキラキラと反射してウォルターは夢と現の境をさまよっていた。

ジュヌヴィエーヴは蓋の開いたクリームチョコレートの箱を抱え込んでいた。箱を抱いているその体はぶよぶよ太って色艶が悪かった。日の光の下に出てきたその顔はまん丸く肥えていて目は真っ白なパンをこねた中に突っ込まれた2つの大きな卵のようであった。
足は木の幹のように太くて,それを引きずって歩いていた。髪の毛は判然としない茶褐色で,鳥の巣の御用を何度も務めさせられていたように見えた。唇らしいものが全くなく,その埋め合わせに大きな輪っか状に脂ぎった口が描かれていて,眉毛は余分な毛が抜かれて細いアンテナ線みたいな形にされていた。
「ここにもお菓子屋さんがあったわ!ほんとにアタイ,あの大騒ぎの後はしたいように暮らしているの。アタイあいつらなんか大嫌いだったの。皆馬鹿よ。2月前にロケットに乗って行っちゃった。アタイも一番最後にロケットで行くはずだったんだけど。。結局残ることにしたの。どうしてか分かる?みんながアタイをいじめるからさ。だから体にどれだけ香水かけても何万杯ビール飲んでも何も言われない。「カロリー摂りすぎだ」なんて言われないでお菓子食べたいだけ食べられるところに残ったの」
ウォルターは目をつぶった。女の声は電話の声と同じように優しく甘い潤んだ声であった。しかしいざ目を開けて女の姿を見ると。。
ウォルターはは後ずさりしながら
「素晴らしい」
「言いたいいことはあばよってことさ」
ジュヌヴィエーヴが悲鳴を上げる間もなくウォルターは車に乗りその場を去った。

ーRay Bradburry「火星年代記」,ハヤカワ文庫,1954年初刊

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30.4.22
封鎖下の東京を歩きふとBradburryの世界を思い出す。

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posted by datasea at 21:00| Comment(0) | ♪  詩・小説・著書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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