2020年02月29日

高嶋哲夫「首都感染」(2010)  〜W杯下東京でのパンデミック

高嶋哲夫「首都感染」(2010)  〜W杯下東京でのパンデミック
社会  
新型コロナウィルス大流行を10年前から予言!? 『首都感染』作者・高嶋哲夫氏に聞いた
2020.02.25
『首都感染』(講談社)
東京でのパンデミックを描いた10年前の小説
コロナウィルスの伝染は広がり、ついに国内でも死者が出る事態になってしまった。  そして和歌山県や北海道などでも感染例が見つかり、もはや「中国の話」ではなくなってしまっている。このまま収束しなければ、東京五輪の開催にも影響が出る恐れが否定しきれない。  実は、今回の事態を約十年前に予測していたかのような小説を書いていた人物がいる。『首都感染』(講談社文庫)の著者・高嶋哲夫氏である。  簡単にあらすじを紹介する。  
20XX 年、中国W杯が開催され、中国代表が決勝まで勝ち進み国内外の盛り上がりは最高潮に達していた。日本代表も上位進出を果たし、日本国内も興奮の坩堝と化していた。  そんな大会の真っ最中に、中国の片田舎で致死率60%の大規模感染症(パンデミック)が発生する。  しかし、中国政府はW杯の盛り上がりを潰すわけにはいかず、ひたすら事態を隠ぺいする。もちろん、そんな隠ぺいが未来永劫続けられるはずがない。  ついに大会中止に追い込まれ、同時に全世界から集まっていたサポーターたちが帰国の途につき、一気にパンデミックが全世界規模のものとなり、日本でも死者が出る。首相は、パンデミックを抑えるために前代未聞の決断を迫られる−−。
■W杯を舞台に設定したリアリティ
この設定が秀逸なのは、言うまでもなく「W杯開催中」という点である。全世界から人が集まり、大会終了後(あるいは母国代表の敗退後)に帰国の途につき散っていく。パンデミックが一気に広がる条件がこれほど整っているタイミングは五輪とW杯だけだ。  実際、2022年に北京冬季五輪が決まっており、21世紀前半のうちのどこかで中国W杯が開催されることもほぼ確実である。不謹慎を承知で言うが、今回のコロナウィルスは「中国W杯」あるいは五輪に重なっていなかったのが不幸中の幸いという側面もあるのだ。  高嶋氏には、『首都感染』の他にも、『東京大洪水』(集英社文庫)という作品もある。超大型台風が二つ重なったために都内の東三分の一が水没してしまう……台風19号で十分にありえたシナリオである。  全くの余談だが、筆者は19号が直撃したその日、手賀沼を目の前にする自宅が水没する恐怖に怯えながら『東京大洪水』を読みふけっていた。また、高嶋氏は3.11より以前に『TSUNAMI』(集英社文庫)も執筆している。内容は言うまでもあるまい。  一度なら偶然かもしれないが、三回続くのは実力であり、必然である。  ということで、神戸市在住の高嶋氏に今回のコロナウィルスをどう見るか話を伺うことにした。
■発刊当時は、パンデミックという言葉があまり知られていなかった
高嶋哲夫氏
「私があの作品を書きたいと構想を固めていったのは、まだ世間に“パンデミック”という言葉が広がっていない時期のことでした。今から二十年以上前のことですから、SARSよりもさらに前の話になりますね。それこそエボラが発生するさらに前のことですが、私が“ペトロバグ”という小説を書いていたんですよ。石油生成菌についての話なのですが、その調査過程で“パンデミック”と言う言葉を知り、書いてみたいと思うようになりました。その後SARSが発生したこともあり、編集者もわかってくれて書けたということですね」  本当は、タイトルも「パンデミック」にしたかったという。  「ただ、今でこそ少し知られるようになった単語ですが、あの当時にはまだこの言葉で意味が分かる人は誰もいないだろうということで、“首都感染”になりました」  小説のテーマ自体が「いかにして感染を首都・東京だけに封じ込めるか」であるから、筆者の目から見ても「首都感染」はいいタイトルだと思う次第である。  「首都感染」と「コロナウィルス」に共通しているのが、まさに「中国発」という点である。そういえばSARSも中国発であった。 「あまり中国ばかり悪者にするのもよくないと思うんだけど、パンデミックが中国で発生しやすいという現実がありますね。SARSもそうでしたから。やはり、まだ未開の地が多く文化の違いが大きい理由なのでしょうね。エボラはアフリカ発でしたが、多くの未知の感染症がアフリカと中国発ですからね。人に触れることなく、山奥にひっそりと生息しているコウモリやネズミがウイルスを持っているんでしょうね」  ただ、中国に未開の地が多いのは事実だがそれを言うなら北朝鮮はそれ以上に「未開」の地域が多いはずではないか。しかし、筆者が知る限り北朝鮮発のパンデミックが発生したというのは聞いたことがない。それはなぜか。 「確かに陸続きですからね。発生してもおかしくはありません。未知の山奥の開発速度や、食文化の違いがあるのかもしれません。地球上には未知の多くのウイルスや細菌がいますから、単に運がいいだけかもしれません」
■「スペイン風邪」という名称の「政治性」
20世紀に発生した最大のパンデミックは、間違いなく「スペイン風邪」であった。 「スペイン風邪とは、要はインフルエンザの一種ですけれども、“スペイン”と名前はついていますが実は米国発なんですよ。当時、第一次世界大戦中で兵士の移動によって世界的に広まりました。中立国であったスペインのみがこのパンデミックを報道したのでスペイン風邪と言われているようです。なんだか、政治的ですね」  「首都感染」においては、パンデミックの致死率が60%という設定になっている。 「大げさな数字なのは確かです。今回のコロナウィルスの致死率はそこまでいっていませんからね。(筆者註:2月12日付ナショナル・ジオグラフィックの記事によると約2%。ただし、罹患者数はすでにSARSをはるかに超えている)ただ、中世ヨーロッパでペストが発生した際には、ヨーロッパ全人口の3分の1前後が亡くなったと言われています。そう考えれば、致死率六割というのも、全くない話とは言い切れないですね」  ということで、次回引き続き高嶋氏には今後の展開の予測および提言を行っていただくものとしたい。 <取材・文・撮影/タカ大丸> 高嶋/哲夫:1949年、岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業。同大学院修士課程修了。日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。81年に帰国後、学習塾経営をしながら小説執筆活動に入る。’94年、『メルトダウン』(講談社文庫)で第1回小説現代推理新人賞、’99年、『イントゥルーダー』(文春文庫)で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞

ハーバー・ビジネス・オンライン
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タカ大丸
ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。

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