2019年01月27日

20世紀後半期のメキシコ・韓国・日本の経済比較

「景気循環の現段階:メキシコ、韓国、日本を比較して」
横浜商科大学   尾関 修
はじめに
筆者は、これまで投資水準(総固定資本形成/GDP)と輸入輸出比率(輸入/輸出)を指標として採用し、主にラテンアメリカの景気循環について、シュンペーターの3循環図式を改良してモデル化を行ってきた。その中で、NAFTA、MERCOSUR(メルコスル)、アンデス共同体などの地域統合を資本流入による景気回復の要因として評価する一方、債務危機を資本逃避による景気低下の要因と考え、総合収支/外貨準備と財政収支/財政収入の比率で対外対内の債務危機を指標化し、景気循環への影響を考察してきた。
メキシコの通貨危機の分析においては、石油開発や地域統合によるバブルの発生を標準的な景気循環を撹乱する要因として位置づけ、設備循環、建設循環、長期波動を組み合わせた3循環図式を維持することによって将来見通しを行った。メキシコの通貨危機は、この図式から上方に外れた形で続いていたメキシコの経済成長を急低下させ、図式の傾向に回帰させるものであった(1) 。また、ペルーの分析においては、チリの分析で用いた在庫循環を加えた4循環図式を一般的に適用できる図式として採用し、経済成長率の長期見通しを得ることができた(2) 。ただし、ペルーは、97年末から異常気象の影響を受けることになった。この異常気象は500年周期のメガニィーニョ現象といわれるもので、先の4つの循環を越えた循環の存在が景気に影響を与えることを示している。
また一方で筆者は、90年代を日本の長期波動の低下過程と位置づけ、これを転換するイノべーションの枠組みとして、ラテンアメリカを含めた環太平洋経済が開かれた地域主義で統合していくことの重要性を意識し、地球環境問題を軸としたオールターナティブの必要性を論じてきた(3) 。実際に環太平洋経済の相互依存関係は、1994年末のメキシコの通貨危機が隣国アメリカの経済に衝撃を与え、翌年のドル安と急激な円高となって跳ね返り、1997年のタイ、インドネシア、韓国の通貨危機が今日の円安とドル高を導いたことによって現出することになった。メキシコと韓国の通貨危機は、両国がOECDに加盟することになった直後に起こった点で共通性があると考えられるし、円は両国の通貨危機から直接の影響を受けている。しかし、メキシコは通貨危機を克服し小康を得ているのに対し、韓国や日本の展望は見えて来ない。そこで、メキシコ、韓国、日本の景気循環を比較し、長期波動をベースとした4循環図式から見て、韓国と日本の景気循環の現段階を検討することを本稿の課題とし、 東アジアの経済発展のオールターナティブを模索していきたい。
1、投資水準で見た景気循環
始めに、図1によって、メキシコ、韓国、日本の投資水準(総投資/GDP)を比較してみることにしたい。総投資(総固定資本形成+在庫投資)/GDPの推移は、在庫循環、設備循環、建設循環を合成した動きを示すと考えられるが、イノベーションのための設備投資や建設投資と関係が深いとされる長期波動の動きをも含んでいると考えられる。すなわち、景気の4つの循環とその相互作用を複合していると考えられるのである。そこで、投資水準は全体として、上昇、下降、低下、回復という4つの過程を経て長期波動のサイクルで循環していると仮定する。
韓国の投資水準は、李承晩政権(48~60年)が学生革命によって倒された後の61年に、朴正煕少将と金鐘泌大佐に率いられたクーデターによって成立した軍事政権の下で上昇を開始した。63年の大統領選挙によって成立した朴政権の下で投資水準は飛躍的に上昇し、79年に朴大統領が暗殺されるまで、波を打って上昇した。その水準は66年にはメキシコの水準を追い抜き、79年には日本の水準をも上回るに至った。
日本の投資水準は、
鳩山/石橋/岸政権( 54〜60年)、
池田政権( 60〜64年)
による経済自由化と重化学工業化政策によって大きく上昇し、
神武景気(54〜58年)の57年、
岩戸景気(58〜62年)の61年
に突出した山を示している。
この上昇過程は、韓国の70年代の上昇過程とパターンが似ている。
韓国は朝鮮戦争から、日本は太平洋戦争からの復興に続く拡大を示しているものと考えられる。
日本では、64年の東京オリンピックの後に交代した
佐藤政権(64〜72年)
下で、65年の不況が発生し投資水準は落ち込んだものの、この年から建設国債が発行され景気は上向き、
いざなぎ景気(65~71年)
が出現し、70年に山を示した。
ただし、この山は61年の山を下回っている。
一方、 韓国でも、79年の突出した山のあと投資水準は横ばいを示し、81年に累積債務が300億ドルを越え総合収支は赤字となり、82年にはメキシコと同様に外貨の支払い困難に陥った。全斗煥による軍事政権(79〜87年)は、それまでの開発優先の経済政策に対する国民の不満を力によって押さえつけようとしたが政治的軋轢は深まり、官僚による経済への過度の介入は非効率を招いた(4) 。韓国は、中東での海外建設事業と建設労働の出稼ぎを急増させ外貨不足を補わざるを得なかった(5) 。 しかし、85年の先進5カ国によるプラザ合意後、円高により日本製品の価格が急騰し始めると、韓国のウォンは米ドルとほぼ連動していたため、韓国製品は日本の中低位の製品代替品として輸出を伸ばした。そして、盧泰愚政権(87〜92年)による段階的民主化とソウル・オリンピック(88年)によって韓国の投資水準は再び上昇を開始し、91年には、79年を上回る山を迎えたのである。
メキシコと韓国の投資水準は、山と谷がほぼ一致していることに気づかされる。先の論文で見たように、メキシコの投資水準は、60年代後半からアメリカの水準を上回り、70年代後半からは石油の開発ブームを背景として上昇を続けたが、82年の原油価格の低下によってブームは崩壊した。この後、メキシコの投資水準は低迷するが、韓国と同様に86年を底として上昇に転じ、92年に山を迎えている。これは、NAFTAを見込んだブームと考えられることは先にも述べたが、94年末の通貨危機によってブームは崩壊した。
戦後日本の設備投資の循環は、
51年、
61年、
70年、
80年、
90年
にピークがあり、10年サイクルを示している 。
なかでも、日本のいざなぎ景気(65〜71年)における70年のピークは、民間設備投資/GNPの比率が最も高く(6)、実質GNPの7ヶ年移動平均で見た成長率循環も下降への転換点を示しており、50年代から始まった輸送・通信・エネルギーなどの技術革新による投資のピークであった(7) 。71年はニクソン・ショックもあって円高による落ち込みが見られたが、田中角栄政権(72〜74年)が登場すると日本列島改造ブームが起こり、73年には再びピークを迎える。この年は住宅投資や建設投資の循環がピークを示した年として知られている(8) 。しかし、この年の終わりに発生した石油ショックにより、列島改造ブームは崩壊し投資水準は下降に転じた。
日本の投資水準における61年と70年の山の期間が、中期循環を示しているように、韓国における79年と91年の山の期間も、中期循環を示しているとみることが出来る。韓国でも92年には落ち込みが見られたが、金泳三政権(93〜98年)は短期資本を取り入れて景気浮揚策をとったため、輸入の拡大を招き経常収支は赤字となり、97年に入るとタイの通貨危機によってウォンが動揺し外貨支払いに困難を来すことになった。メキシコが通貨危機から約2年で一応の回復を示したため、韓国の場合も2、3年のうちに回復すると考えられているが、どのようなプロセスで回復が見られるのだろうか。
投資水準のピークを示すブームの崩壊の契機となった点で、日本にとっての73年の石油ショックは、メキシコにとっての82年の債務危機、韓国にとっての97年のアジアの通貨危機と同じ意味合いがあるように見える。日本の投資水準は74年以降、長期の下降を示している。80年前後に回復を示したが、第2次石油ショクの影響もあって、80年代前半は、再び下降に転じている。86年に石油価格が下落し、80年代後半はプラザ合意による円高不況からの回復が始まり、90年にはピークを迎えている。このピークは、バブルの影響で大きく盛り上がったが、設備投資の循環だけでなく、73年に山を示した建設投資の循環が再び山に向かっていたことも影響している。 90年代の前半は建設投資と設備投資の下降が重なり、投資水準は低下した。 90年代後半に入ると設備投資の回復が見られ、投資水準は少し回復したが、97年には再び低下している。これは、日本の長期波動が底に向かっていることとも関係がある(9) 。
バーノンのプロダクトサイクル(10) に基づき、韓国が日本の後を追っているという仮定に立つならば、日本の例から考えて、韓国の投資水準は、今後20年以上は下降過程と低下過程をたどると見ることができる。日本の投資水準がイノベーションによって本格的な回復過程に転ずることが出来るならば、韓国も低下過程の後に回復過程に転ずることになる。このような仮定を立てることは妥当なことであろうか。この点をさらに検討してみることにしたい。
2、経済成長率、輸入輸出比率と景気循環
次に、投資水準とは違って、短期循環の動きをはっきりと反映する経済成長率によって、比較してみることにしたい。図2がメキシコ、韓国、日本の経済成長率を比較したものである。6年、7年というケースは、何らかの理由で短期循環が二つ連続した場合と考えれば、経済成長率はいずれの国でも短期循環を示していると考えられる(11) 。しかし、その振幅は、投資水準と連動して、大きく変動している。
日本の経済成長率は、60年代においては、10%を上回る高成長を示したが、71年のドル・ショック、73年の石油ショックによる落ち込みを契機として5%内外の成長に下降し、90年代に入ると1%前後に低下している。これは、投資水準の上昇と下降と対応している。メキシコの経済成長率も投資水準の上昇と下降に対応して、60年代70年代は5〜10%の水準であったが、82年の債務危機を契機として、−5〜 5%に下降した。
これに対して、韓国の経済成長率は、
60年代70年代と5〜15%の高成長が続き、
80年に大きな落ち込みがあったものの、
80年代90年代と5〜12%の高成長が続いた。
これは、韓国の投資水準が全般的には上昇過程にあったことと対応している。
投資水準が横ばいであった全斗煥の軍事政権(79〜87年)の時代においても10%を超える年が3回もあった。
しかし、日本と韓国の投資水準の比較から見ると、予想される98年のマイナス成長を克服した後は、5%内外に下降するのではなかろうか。
これらのことから見て、経済成長率は、短期循環だけではなく長期波動をも反映していると考えられる。
一方、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ペルーなどのラテンアメリカのNIESにおいては、好況には輸出よりも輸入が増大し、不況には輸入が減少し輸出にドライブがかかり、輸入/輸出の比率が景気循環を示すことになることを論証してきた(12) 。韓国、日本の場合はどうであろうか。
図3がメキシコ、韓国、日本の輸入輸出比率の比較である。韓国の50年代60年代の輸入輸出比率は極めて高いので、対数目盛りで示してある。
日本の輸入輸出比率は、1を上回った57年、61年の山は好景気を示していた。
これは短期循環を示していると見ることができる。60年代後半以降は輸入輸出比率は1を下回ることになり、石油ショック後の74年の不況に山を示すことになった。80年、90年の山は設備投資の循環による好況と一致しているが、輸入輸出比率は1を上回ることはなかった。メキシコの輸入輸出比率は、60年代70年代は1を上回っていたが、債務危機のあった80年代は1を下回っている。90年代前半にはNAFTAのブームのため再び1を上回っているが、後半は通貨危機の影響もあって再び1を下回っている。
これに対し、韓国の輸入輸出比率は、60年代70年代と急激な低下を続けた。
79年の投資水準の山でも輸入輸出比率はそれほど上昇していない。その後も低下を続け、
85年以降は1を下回ったが、
91年の投資水準の山の時に1を上回っている。
通貨危機に陥った97年以降は再び1を下回ると思われる。
いずれにせよ、韓国はNIESとして輸出主導型の発展を示してきたといわれるものの、輸入輸出比率はこれまで1を下回ることは少なかったのであり、ラテンアメリカのNIESの場合と違って、韓国や日本の場合は、景気循環をはっきりとは示していない。日本の場合は、NIESとは工業化の段階が異なることによって説明できる。一方、韓国の場合は60年代の工業化の始めから、輸入代替政策や比較優位の原理を顧みることなく、加工輸出主導型の経済成長を目指してきた(13) 。このため、不況でも輸出に見合って加工用原材料輸入が増え、輸入輸出比率の変動は少なく1を下回るほど低下しなかった。
これに対し、ラテンアメリカのNIESでは、鉱産物、農水産物、木材などの1次産品の輸出が多く、50年代から輸入代替政策による工業化を図ったため資本財の輸入が増加して、輸入輸出比率は短期循環を示しながら、その水準は上昇してきた。70年代の石油危機の頃、この水準はピークに達し、80年代の債務危機以降は外貨取得のため工業品の輸出に力を入れたため、輸入輸出比率の水準は下降することになった。このため、輸入輸出比率は、長期波動や短期循環を反映することになったと考えられる。
3、4循環図式:日本の場合
シュンペーターの3循環図式(在庫循環+設備循環+長期波動)と、筆者がブラジル、メキシコなどの景気循環モデルとして改良した3循環図式(設備循環+建設循環+長期波動)においては、周期の比を振幅の比として、サインカーブを組み合わせている。これに対し、チリ、ペルーでは投資水準の変動が大きいため、輸入輸出比率で示される景気循環と4循環図式(在庫循環+設備循環+建設循環+長期波動)の対応を、周期の比を振幅に比例させないという工夫をして見出した。韓国、日本の場合は、輸入輸出比率は景気循環を必ずしも示していないので、投資水準で示される景気循環に4循環図式を適用して見たいが、周期の比を振幅の比とするシュンペーターの仮説に戻ることにしたい。
筆者は、4循環図式の標準周期として、次のような仮説を立ててきた。
ジュグラー循環は3個のキチン循環を含み、
コンドラチェフ循環は6個のジュグラー循環を含む
というシュンペーターの洞察(14) に基づき、キチン循環の平均周期40ヶ月をベースとし、設備循環の標準周期を10年、長期波動の標準周期を60年と仮定する(15) 。
また、コンドラチェフ循環は、クズネッツ循環を3個含むと考えて、建設循環の標準周期を20年とする。
ここで固定的な標準周期と巾のある平均周期を区別したのは、これまで計測されてきた
短期循環(キチン)、
中期循環(ジュグラー)、
長期循環(クズネッツ)、
長期波動(コンドラチェフ)
の平均周期から見て、
在庫循環、
設備循環、
建設循環、
長期波動
の理想モデルとして採用できる標準周期を想定するためである。
このような理想モデルを想定することは、マックス・ウェーバーのIdealtypus(理想型)によって意味づけられる(16) 。
3循環図式から4循環図式に拡大しているが、年次ベースで投資・GDP比率を観察することとし、月次ベースのシュンペーターの理想モデルより単純化している。このように理想化されたモデルによっても、周期の起点や振幅を変えると、その組み合わせは無限であり、現実の景気循環モデルとなりうることは、ラテンアメリカ各国の例で示した通りである。チリとペルーのケースでは、在庫循環を4年としてより単純化したが、仮説を崩すことになるので、今回は採用しない。
日本の場合においては、在庫循環、設備循環、建設循環、長期波動を、それぞれ
標準周期
40ヶ月、
10年、
20年、
60年
と仮定し、シュンペーターに倣って周期の比を振幅の比、
3.33:10:20:60 = 0.333:1:2:6
と仮定して描いたサインカーブによるモデルを、図4に示している。
設備循環の振幅をベースとしたのは、在庫循環を除く3循環図式で、振幅比を 10:20:60 =1:2:6としたためである。
サインカーブは、下記の数式を採用した。
在庫循環 = 0.333 sin ( 360 n / 3.33 )
設備循環 = 1 sin ( 360 ( n - 3 ) / 10 )
建設循環 = 2 sin ( 360 ( n + 7) / 20 )
長期波動 = 6 sin ( 360 n / 60 )
数式中のnは、1955年を起点とする経過年数を示している。55年を起点としたのは、日本の長期波動のピークを70年と想定したため、逆算したものである。この頃、一人当たり所得も消費も戦前水準を超え、「もはや戦後ではない」と宣言されたので、長期波動のサインカーブの起点として適当であろう。長期波動のピークを61年の投資水準よりは低い70年と想定したのは、70年は、民間設備投資・GNP比率が戦後で最も高い年であるためである。70年は「いざなぎ景気」というスーパー・ブームの山であり長期波動を背景としていると考えられるのである。
日本の在庫投資のGDP比率は、景気基準日付の年と必ずしも一致せず、54年、58年、62年、65年、69年、72年、75年、78年、83年、87年、90年、94年に谷を示しているので、標準周期に近いといえる。54年が谷を示しているので回復過程の 55年を在庫循環のサインカーブの起点とすることは適当であろう。付図(図9)を参照されたい。
日本の設備投資GDP比率の平均周期は10年なので、標準周期と一致している。 51年、61年、70年、80年、90年に山があるので、 (n -3)と調整することによって10年周期のモデルの山と一致させている。日本の建設投資のGDP比率の平均周期は、17〜20年であるので (17) 、 標準周期と若干ずれがあるが、建設循環は、73年に山があるので、 ( n + 7 )と調整することによって20年周期のモデルの山と一致させている。
図4は、日本の景気循環の理想モデルということになる。長期波動の底を1940年と2000年に想定している。 図5は、長期波動、建設循環+長期波動、設備循環+建設循環+長期波動(改良された3循環図式)、在庫循環+設備循環+建設循環+長期波動(4循環図式)が、同時に描かれている。この4循環図式は理想モデルであるから、現実の景気循環の山谷を示す実績値との乖離は避けられないが、景気循環の物差しとして、実績値と比較してみることにしたい。
図6は、図2に示された日本の投資水準の実績値と4循環図式の比較である。投資水準の実績値の平均値GDP比31.6%を加えて、図5の4循環図式のパターンを重ねあわせている。これで見ると、投資水準がパターンから外れているのは、50年代60年代前半では、太平洋戦争後の復興と拡大の過程にあるためという説明が成り立つだろう。71、72年の落ち込みは円の切り上げ、70年代後半の落ち込みは石油ショックによるバブルの崩壊と説明できる。 80年代後半の上昇はプラザ合意後のバブルで説明できるし、90年代前半においては、平成不況といわれる中での大型の景気対策が投資水準を押し上げていることが考えられる。
4循環図式は、標準周期のサインカーブの組み合わせで現した理想モデルであり、投資水準の実績値の山と理想モデルの山を出来る限り一致させた4循環図式のパターンが、投資水準(レベル)の標準値を示すことになる。図6のパターンによれば、日本の投資水準の標準値はGDP比では24〜40%の振幅を示すことになる。貿易環境や財政金融政策によって投資水準は大きく左右されるものであるから、標準値との乖離は避けられないが、乖離を説明する要因の大きさを測るためにも、標準値を想定することは意義があるであろう。図6の日本の4循環図式が標準値を示すとすれば、90年代後半の日本経済は、設備投資が回復基調にあるとはいえ、投資水準の低迷は避けられないと考えられ、4循環図式の底は2004年であるから、そのころから回復過程に入ると見られるのである。
日本から20年以上遅れて上昇を示してきた韓国の投資水準は、1997年の通貨危機を契機に下降に転じると予想されるが、石油ショック以降の日本の4循環図式が、韓国の今後20年の予想に役立つことになる。
4、4循環図式と経済成長率
図5に示した4循環図式は、景気循環の標準的振幅を示すものであるが、投資比率との対応は明らかであり、これは景気の水準(レベル)を示していることになる。シュンペーターが循環図式に加えて、その変化率の図式を示しているのは、成長率循環の標準的振幅を示すためであったと考えられる。図2と付図(図9)を比較すると、経済成長率は、在庫循環と必ずしも一致しておらず、景気の成長率循環の振幅を示していると考えられ、現実の景況感と一致するものであるから、投資水準だけでなく実質経済成長率と4循環図式の変化率との関係を検討することも意義があるであろう。
図7は、日本の実質経済成長率でみた景気循環を、日本の4循環図式の変化率と比較している。
ただし、変化率は、経済成長率と比較するため、(対前年との差分*3.9+6.1) と調整している。
図2から、経済成長率の実績値の平均6.1%を加え、1974年の標準的振幅を実績値に近い0%に調整するため4循環図式の対前年の差分を3.9倍して、直接比較できるようにしたのである。
日本の経済成長率の振幅は大きいが、マイナスを示すことはめったになく、0〜 15%の振幅を示しており、70年代初頭を境に経済成長率は10%を上回る水準から5%を下回る水準に様変わりしている。4循環図式が上昇過程から下降過程に転じたことと対応している。80年代後半は、4循環図式の変化率は上昇を示しているので、この時期の経済成長はバブルだけでは説明できない。90年代に入ると4循環図式は低下過程に入り、経済成長率も0%に近い水準に低下している。 しかし、4循環図式の変化率は、90年代の後半から回復に向かうことになっている。成長率循環の標準的振幅と現実の成長率の振幅とは、簡単な調整によって比較できたといえるだろう。
図2に示した韓国の経済成長率は、1960年代1970年代と高く、1980年代も高かったが、1990年代に入って鈍化している。
投資水準の推移から見て、韓国の4循環図式は日本より20年以上遅れたパターンを示すと考えられるので、韓国の1990年代の成長率鈍化は日本の経済成長率が70年代に入って鈍化したことに比せられる。20年前の日本の4循環図式の変化率が韓国にも当て嵌まるとすれば、予想される98年のマイナス経済成長を克服した後も、今後20年近くは5%以下の水準に止まり、その後もしばらく低迷することになる。このような苦境から脱出するためには、大きなイノベーションの枠組みを必要とする。メキシコは、80年代の低迷を抜け出すため、NAFTAという枠組みを必要とした。日本と韓国が経済関係を拡大することによって、投資水準を回復過程に転換していく必要があるのではなかろうか。金大中新政権との間に日韓新ビジョンが形成されれば、韓国の投資水準の回復に役立つばかりでなく、日本の投資水準の回復にも役立つだろう。
5、政府債務残高と景気循環
4循環図式が、日本と韓国の投資水準と経済成長率の低迷を予測させる根拠となっているが、債務危機が長期波動を下降低下させる原因となっていることを、メキシコ、ペルーの例で見てきたので、日本と韓国についても長期波動と債務危機の関係を調べる必要があると考えられる。通貨危機は、対外債務の危機だけではなく、対内債務の危機とも密接に結びついているので、総合収支/外貨準備、財政収支/財政収入を指標として債務危機の年を検出してきたが、日本の場合には適切ではないので、国際的指標でもある政府債務残高/GDPを指標として採用する。
図8は、韓国、日本の政府債務残高/GDPの推移を比較したものである。
日本の政府債務残高は、368兆円(1997年末)であり、GDPの72.4%に達している。
銀行の不良債権だけではなく、政府債務が円安圧力になっていることを見逃してはならない。
日本の政府債務残高/GDPは太平洋戦争中は100%を超えており、1944年は144%にも達していた。
戦後は、戦時補償打切り、国債の日銀引受け禁止、財政の継続費条項廃止、経済安定9原則などによる均衡財政により急速に改善し、1950年代には10%以下となったが、65年の不況の後早くも均衡財政から転換して建設国債の発行に踏み切った。しかし、65〜70年は「いざなぎ景気」が続き、財政収支は急速に改善していったので、 政府債務残高/GDPの指標は、それほど悪化しなかった。第1次石油ショックで日本経済がマイナス成長に陥り、税収が大幅に落ち込み、75年からは特例国債すなわち赤字国債が発行されたため、78年には財政赤字はGDPの7.5%にも達する事態となり、政府債務残高のGDP比は30%を上回った。
大平内閣(78〜80年)は84年度赤字国債脱却を表明したが、79年の第2次石油ショック後の景気後退で財政再建は進まず、投資水準は反対に下降し82年にはGDP比30%を下回った。中曽根内閣(82〜87年)は90年度赤字国債発行ゼロを表明した。これは、90年度予算で16年ぶりに赤字国債の発行額はゼロとなったことによって実現したが、91年度末で国債発行残高は224兆円となっており、政府債務残高のGDP比は48.4%であった。しかし、92年以降の平成不況の中で、再び赤字国債が発行され、政府債務総額のGDP比は、再び悪化して97年では72.4%になったのである。
日本の債務危機のプロセスは、図6と図7に見るような73年以降の投資水準と経済成長率の下降と低下のプロセスと一致している。経済成長率の足を引っ張ってきたのは、皮肉にも景気対策が生んだ政府債務であった。景気対策のため財政再建が棚上げされれば、経済成長率の足を引っ張ることになり、投資水準の回復へ転換するには時間がかかることになる。赤字国債発行ゼロが2003年さらに2005年に先送りされたので、回復への転換はそれまでは難しいということになる。4循環図式の底を1944年、2004年と想定しているが、政府債務残高/GDPの底は、これと一致する動きをするだろう。
日本に比べ、韓国の政府債務残高は33.6兆ウォン(1996年末)で、GDPの8.6%に過ぎなかった。韓国の投資水準がピークを示した91年では7.5%であり、少し悪化した程度であった。この水準は、日本の「いざなぎ景気」の時のピークである70年の債務残高が8.3%であったことを考えるとうなずける。日本は石油ショックの後、債務危機に陥っていくが、韓国は、97年の通貨危機の後、債務危機に陥っている。メキシコは政府が短期国債を発行して、短期の外資を大量に取り入れたのに対して、韓国は民間が直接に外国から短期資本を導入して経済成長を図ってきた。外資の流出が始まれば、これを防ぐ手だてはない状態であったので、国家が民間債務を肩代わりすることを余儀なくされ、債務危機に晒されることになったのである。これまでは、政府債務残高のGDP比は高くなかったが、IMF
の支援を受け入れることで政府債務は急増していくことになる。このため韓国の投資水準の回復には容易に繋がらないのではないかということが、図8からの結論である。
おわりに
1997年12月、債務危機の中で金大中が大統領に当選し、韓国は新しい時代に入った。
輸出主導型の経済政策で成功を収め、 1990年代の日本が長期波動の低下過程に入る一方で、新興経済国として認められてきていた韓国ではあったが、 財閥中心に重化学工業、 輸出産業を拡大してきた経済構造が、賃金の上昇と為替高によって競争力を失い、外貨の支払い困難に陥ったのであった。メキシコのサリーナス前大統領は、韓国の経済政策を手本として80年代の債務危機から抜け出してきたといわれる。これは短期資本を導入して輸出産業を拡大するということであった。しかし、短期資本の逃避はメキシコから始まり、タイ、マレーシア、インドネシア、韓国と続いたのであった。さらに、アジアの通貨危機の影響は反対にラテンアメリカにも及んでいる。
韓国の対外債務は、1997年12月末時点で、1530億ドルに達した。1年以内に返済期限が来る短期債務は802億ドルで、全体の52.4%を占めた。IMFとの債務繰り延べ交渉で、この短期債務のうち韓国民間銀行向けの240億ドルが政府保証融資に切り替えられ、融資の最大3年延長が認められたことで、一先ず危機は回避された。しかし、政府債務は倍増し、対外債務1530億ドルの金利支払いだけで、年間100億ドルを超えるため、外貨支払い困難は続くことになる。短期資本の逃避のきっかけになったのは、金泳三大統領が進めた韓国版金融ビッグバン関連の法案が国会で否決されてしまったことにあった。しかし、金融危機に陥ったことで、金融・証券の自由化、財閥の改革などのIMFの条件を受け入れざるを得なくなり、金大中大統領も就任以前に約束せざるをえなかった。日本の金融ビッグバンも外圧に迫られたものであったが、韓国の場合は強制されたに等しいものとなった。短期資本の流入によって維持されてきた韓国の投資水準は、この強制されたビックバン[?n?y?d?j1]を契機として下降していくだろう。日本の4循環図式の20年前を当てはめれば、一時的回復はあっても、さらに低下過程を辿った後に回復過程に転じるという予測になるが、メキシコの例によれば、韓国の一時的回復や回復過程への契機として、地域統合のような市場の拡大が必要である。日本と韓国の市場の新たな結合は、日本の回復過程にも役立つであろうし、南北朝鮮の経済交流は困難はあっても長期的には韓国の回復過程への転換を促すと考えられる。韓国でもコンドラチェフ循環が意識されており、地域統合に活路が求められている(18) 。いま問われているのは、このような転換を遣り抜く政治の自己調整機能であろう(19) 。
以上
1998年7月8日

尾関修のページ
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1184/japan.html
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1184/environ.html
http://www2.ocn.ne.jp/~ozeki/foreign.html









(1) :尾関修「メキシコの通貨危機と経済成長の長期見通し」景気とサイクル(景気循環学 会機関誌)第22号(1996年5月刊)。95年のメキシコは、経済成長率はマイナス6.9%を示したが、78億ドルの貿易黒字を出したため、経常収支は大幅に改善した。そして、97年の初頭には、アメリカやIMFから借り入れた総額150億ドルの債務を繰り上げて完済した。NAFTAは輸入増加によって債務危機を作り出したが、輸出拡大によって景気回復に役立ったというべきであろう。しかし、メキシコの構造改革は未だ進んでおらず、本格的な景気回復に繋がるイノベーションを必要としている。
Vision“Busucan consolidar el crecimento”15 de diciembre de 1997参照。
(2) :尾関修「ペルーの景気循環:メキシコ、チリと比較して」ラテン・アメリカ論集(ラテン・アメリカ政経学会機関紙) No.31(1997年10月刊)。80年代末には ハイパーインフレに見舞われたペルーの景気循環が、経済成長を示してきたチリと同型の4循環図式によって解析されたことは、ペルーとチリの歴史的変動に共通性があることを示している。それは、外資導入による経済自由化政策と民族主義的社会主義政策との攻めぎ合いであり、1次産品とその加工製品の輸出を中心とした経済発展と輸入代替型の工業化政策の攻めぎ合いであると考えることが出来る。
(3):尾関修「ラテンアメリカと環太平洋経済の発展」横浜商大論集第27巻第2号(1994年3月刊)第52回国際経済学会の共通論題として「環太平洋経済」が取り上げられたが、これまでの環太平洋経済の概念が、アジア/オセアニア中心であることを不満として、上記の論題を提出したものである。93年の秋はNAFTAの批准が焦点になっており、メキシコを特に論じているが、自由貿易協定が先住民族や農村地域の経済発展を圧迫していること、貿易赤字によって為替切り下げに追い込まれつつあることなどの指摘が、94年には現実化することになった。メキシコの通貨危機は、IMF主導の構造改革を強いる結果になったが、 本当に必要とされているのは、 民主主義による構造改革である。

尾関修のページ
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19400000 日本経済:日本の政府債務残高/GDP比は太平洋戦争中は100%超
19440000 戦後は均衡財政よって債務残高減,財政改善,
19440000 戦後は債務残高減,戦時補償打切り,国債の日銀引受け禁止,財政の継続費条項廃止,経済安定9原則などによる均衡財政により急速に改善し、
19440000 日本経済:日本の政府債務残高/GDP比は144%
19550000 日本経済:日本の政府債務残高/GDP比は1950年代には10%以下となった
19650000 日本経済:65〜70年「いざなぎ景気」,財政収支は急速に改善
19650000 日本経済:65年の不況の後均衡財政から転換して建設国債の発行に踏み切った
19700000 韓国経済:20年前の日本の4循環図式の変化率が韓国にも当て嵌まる
19700000 韓国経済:韓国の経済成長率は1960年代1970年代と高かった
19700000 日本経済:「いざなぎ景気」のピーク
19700000 日本経済:日本の政府債務残高/GDP比は8.3%
19740000 日本経済:日本は石油ショックの後債務危機に陥っていく
19750000 日本経済:75年からは特例国債すなわち赤字国債発行
19750000 日本経済:第1次石油ショックで日本経済がマイナス成長に陥り税収大幅落込
19780000 日本経済:78年には財政赤字はGDPの7.5%にも達する事態
19780000 日本経済:大平内閣(78〜80年)は84年度赤字国債脱却を表明
19780000 日本経済:日本の政府債務残高/GDP比は30%を上回った
19790000 日本経済:第2次石油ショック>>景気後退>>投資水準下降
19800000 メキシコ経済:80年代低迷
19800000 メキシコ経済:低迷を抜け出すためNAFTAという枠組みを必要とした
19800000 韓国経済:20年前の日本の4循環図式の変化率が韓国にも当て嵌まる
19800000 韓国経済:韓国の経済成長率は1980年代も高かった
19820000 日本経済:中曽根内閣(82〜87年)は90年度赤字国債発行ゼロを表明
19900000 メキシコ経済:メキシコのサリーナス大統領は韓国の経済政策を手本として80年代の債務危機から抜け出してきた
19900000 メキシコ経済:短期資本を導入して輸出産業を拡大する政策
19900000 韓国経済:20年前の日本の4循環図式の変化率が韓国にも当て嵌まる
19900000 韓国経済:韓国の1990年代の成長率鈍化は日本の経済成長率が70年代に入って鈍化したことに比せられる
19900000 韓国経済:金大中新政権との間に日韓新ビジョンが形成されれば投資水準の回復に役立つ
19900000 韓国経済:経済成長率は1990年代に入って鈍化
19900000 韓国経済:投資水準の推移から見て韓国の4循環図式は日本より20年以上遅れたパターンを示すと考えられる
19900000 日本経済:90年度予算で16年ぶりに赤字国債の発行額はゼロとなった
19910000 韓国経済:韓国の投資水準がピークを示した91年では政府債務残高はGDPの7.5%
19910000 韓国経済:韓国は97年の通貨危機の後債務危機=1970年石油ショック後債務危機に陥った日本の相似 尾関修
19920000 日本経済:92年以降はじまる平成不況
19920000 日本経済:日本の金融ビッグバンは外圧に迫られたものであった
19920000 日本経済:平成不況>>再び赤字国債発行>>政府債務総額GDP比は再び悪化
19920300 日本経済:91年度末で国債発行残高は224兆円
19920300 日本経済:91年度末で政府債務残高のGDP比は48.4%
19960000 韓国経済:韓国の政府債務残高は33.6兆ウォン(1996年末)でGDPの8.6%に過ぎなかった。
19970000 韓国経済:財閥中心に重化学工業,輸出産業を拡大してきた経済構造が賃金の上昇と為替高によって競争力を失い外貨支払困難に陥った
19970000 韓国経済:輸出主導型の経済政策で成功を収め新興経済国として認められてきた
19970000 日本経済:政府債務総額のGDP比は72.4%になった
19971200 韓国経済:1997年12月,債務危機の中で金大中が大統領に当選
19971200 韓国経済:1年以内に返済期限が来る短期債務は802億ドルで全体の52.4%
19971200 韓国経済:韓国の対外債務は1997年12月末時点で1530億ドルに達した
19971200 韓国経済:債務超過>>IMFとの債務繰延交渉(短期債務のうち韓国民間銀行向債務を政府保証融資に切替)>>危機回避
19971200 韓国経済:債務超過>>IMFとの債務繰延交渉>>政府債務は倍増
19971200 韓国経済:対外債務1530億ドルの金利支払いだけで、年間100億ドル超>>外貨支払困難は続く
19971200 日本経済:銀行の不良債権だけではなく政府債務が円安圧力になっている
19971200 日本経済:日本の政府債務残高は368兆円(1997年末)でGDPの72.4%
20030000 日本経済:赤字国債発行ゼロが2003年さらに2005年に先送りされた
20040000 日本経済:循環図式の底を1944年、2004年と想定 尾関修/1997

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posted by datasea at 19:00| Comment(0) | $ 経済アナリスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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